World Voice

南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

日本語字幕で観れる!おすすめブラジル映画3本

|『バクラウ』を楽しむためのポイント

●白人至上主義

まず、この物語のインスピレーションになったのは、ベトナム戦争だと監督は舞台挨拶で話している。
殺し屋の米国人たちがバクラウ村を壊滅させることができなかったのには、優位とされていた米国がベトナムに勝てなかった理由に似ている。
徹底的な村人たちの団結こそが、バクラウの魅力なのだ。

更に、"世の中が未だに米国至上主義、そして白人至上主義だ"という痛いところを突いている。
それをあらわにしたのは、殺し屋たちに協力していたブラジル南部出身*のカップルが「私たちはあなたたち(白人)に近い。」と、自分たちは他のブラジル人よりも優れているかのような主張するが、米国人に「君たちは僕たち白人とは別。」「あなたたちはラティーノよ!」と返されるシーン。
ブラジルの中でも未だに白人至上主義が蔓延っている現状をそのまま描いた。
このシーンについて、ブラジル国内では南部出身者からクレームがあり、物議を醸しだしている。
*ブラジル南部はヨーロッパからの移民が多い

●政治的なメッセージ

市長選で勝利するために食べ物や日用品をばら撒く政治家を誰も歓迎していなかったり、村人が何度も村の歴史美術館を称賛したり、学校、図書館、診療所、広場が村人たちにとって非常に大切な場所だと映し出されていることによって、それらをぞんざいにしている政府への反発心が感じられる。
ブラジル人が国の最大の問題だと考える汚職だらけの政治にうんざりしているのがおわかりいただけるだろう。

●機能していない教会

そしてもう一つ注目したいのは、バクラウの教会が集会用の椅子を収容する場所程度にしか使われていないということだ。
バクラウにはレズビアン、トランスジェンダー、売春婦、プロの殺し屋など多様な人々がそれを隠すことなく暮らしている。
例えば同性愛は一部の宗教では認められていないため、教会が中心である地方の村などでは、自分らしく生きられないという人たちもいる。
ド田舎であるバクラウの人々が、それぞれの事情を理解し、互いを尊重するというスタイルは現代を生きる多様な人々の理想かもしれない。
ちなみに、教会が機能していなくても、彼らに信仰心がなくなってわけでは決してない。

●ブラジルの北東部文化の魅力

これは映画の大きなポイントとなっている。
村の緊迫した雰囲気を和ませるように現れるギター弾きのおじさんはへペンチスタと呼ばれる所謂北東部の吟遊詩人。 即興で詩を歌い人々を楽しませてくれる。

もう一人印象深い登場人物は現代版カンガセイロとも思えるルンガである。
カンガセイロはブラジルの北東部の干ばつ地帯で暴れていた盗賊で、皮の帽子に銃、スカーフが特徴。
彼らが盗賊になった理由に、干ばつ地帯の貧困と大農場主と雇われ労働者たちの格差が関係している。

カンガセイロの中でも特に有名なランピアォンは、土地争いによって殺された父親の仇を討つためにカンガセイロの世界に足を踏み入れた。 大量の窃盗と虐殺を繰り返したにも関わらず、彼は家族を殺された者の復讐者で、大農場主に搾取されていた頃の不平等を行動で訴えたとして本や映画でヒーローのように描かれることもある。

●シネマ・ノーヴォの影響

実はこういった北東部の文化を象徴とする大変有名なブラジル映画がある。
1950年代に大衆娯楽映画とは一味違う、ブラジルのナショナリズムを強調した作品を生み出したシネマ・ノーヴォ運動が起こった。

その運動の中心的人物グラウベル・ホーシャの作品『黒い神と白い悪魔』(1964)の舞台は北東部の干ばつ地帯で、へペンチスタやカンガセイロが登場する。
同作の音楽はシンガーソングライターのセルジオ・ヒカルドが担当。
既に『バクラウ』を観た事がある方はお気づきになったかもしれないが、村の長老を埋葬する際に「セルジオ・ヒカルドの曲を歌おう!」と呼びかけられるシーンがある。
バクラウにはこのようにグラウベル作品の影響が所々に散りばめられているので、機会があれば『黒い神と白い悪魔』も視聴してみてほしい。

『バクラウ』の日本語字幕付き予告編

|ブラジル映画の世界進出と今後

ブラジル映画が世界的に注目されるようになったのは、実は2002年の『シティ・オブ・ゴッド』だと言われている。
同作は多くの映画祭で受賞、日本でも公開されているので観た事がある方も多いかもしれない。
リオデジャネイロのスラムを舞台にしたこの物語は、多くの人にブラジルの現状を伝えることができたのではないだろうか。
そして世界的ヒットのおかげで、ブラジル人たちも商業的な大衆映画から社会的メッセージ性の強い国産映画へ興味が広がっていったと言う。
もちろん、ブラジル映画にも国産コメディ、ロマンス、アクションとなんでもあるが、ブラジルの作品はどこかアンチヒーローで現実的だ。
ブラジル人気質溢れる作品が、これからもっと日本で公開されることを望んでいる。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ