パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
ドラゴンボール 鳥山明氏はフランスで一番有名な日本人かもしれない
日本の出版社が鳥山明氏の訃報を発表してまもなく、フランスでは、大々的にほぼ全てのメディアが彼の訃報を大きく報道しました。ル・モンド、フィガロなどのフランスの各主要紙はもちろんのこと、リベラシオン紙では巻頭6ページを堂々と飾る大々的な取り上げ方をされていました。また、フランスのX(旧Twitter)では、「Akira Toriyama」、「Dragon ball」が数日間、トレンドのトップを独占し、それはそれは大きな反応で、改めてフランスで、日本のマンガがどれほど大きな位置を占めており、フランス人の中にどれだけ浸透しているものなのかがまざまざと再確認することとなりました。
フランスを日本に次ぐマンガ大国にした代表的な存在と幅広い支持層
彼の作品は、全世界的な人気であることは、誰もが認めるところではありますが、世界的な支持の中でも、フランスでの日本のマンガ人気は、他国とは飛び抜けた存在であるといえるかもしれません。フランスは日本に次ぐマンガ消費国と言われており、2023年には、約4,000万部、つまり週70万部のマンガが売れています。このフランスのマンガブームの火付け役となったのが、まさにドラゴンボール・鳥山明氏なのです。
今や日本のマンガはフランスの文化の一部でもあります。
かつて、パンデミックの直後に停滞したフランスの文化産業を盛り立てるために政府が若者向けに「カルチャーパス」なるクーポンのようなものを発行し、若者たちが広範囲に文化に触れることを目的として、本はもちろんのこと、マンガや映画やゲーム、映画や音楽、楽器類などの購入に利用できるようになっていました。
ところが、蓋を開けてみれば、このカルチャーパスの75%は、日本のマンガコミックに使用されていることがわかり、カルチャーパスは、「マンガパス」と呼ばれるようになったほどなのです。
À Akira Toriyama et ses millions de passionnés qui ont grandi avec lui.
-- Emmanuel Macron (@EmmanuelMacron) March 8, 2024
鳥山明と何百万もの彼の愛好家へ。 pic.twitter.com/0AAvVxUuj6
当然、このように若年層に大人気であることは、このカルチャーパスがマンガパスになったことで、すでに証明済みだったのですが、今回、彼の訃報の扱われ方の大きさや、数々の著名人のSNSでのコメント発表などを見ていると、それが幅広い支持層に支えられ、もはや日本でよく言う「国民的」ともいうべく人気であったことが証明されたカタチになりました。
彼の訃報については、マクロン大統領をはじめ、ガブリエル・アタル首相、ブルーノ・ルメール財務相までが弔意のコメントを発表しており、(マクロン大統領は、広い意味で卒がないので、あまり驚きはしませんでしたが、あのお堅そうなブルーノ・ルメール財務相までもがポストしていたのには、本当にビックリしました)政府首脳から若い世代まで、そして、日常はマンガに触れることのなさそうな一市民でさえも、ドラゴンボールはよく知っている・・そんな感じの知人がわざわざ私に「日本の偉人が亡くなってしまったね・・」と電話をくれたりして、驚かせられたのです。
"DRAGON BALL DEAD" : la Une du journal Libération ce week-end, après la mort d'Akira Toriyama. pic.twitter.com/c0n2BgB5De
-- Mediavenir (@Mediavenir) March 8, 2024
この彼の訃報の「愛と尊敬」に溢れた反応を見て、彼はもしかしたら、フランスで一番有名な日本人であり、近年、その功績を最も讃えられている日本人なのかもしれない・・と思ったのです。おそらく、日本の首相を知らないフランス人は少なくないと思いますが、ドラゴンボールを知らないフランス人を探すのは難しいかもしれません。
彼のマンガがフランスで人気があるいくつかの理由
すでにフランスでのマンガ人気は、しっかりと定着し、マンガ愛好者たちにより、圧倒的な存在になりつつありますが、そのような人々だけでなく、それが「国民的」に浸透しているものになっていることについては、おそらく多くの人々が「マンガを読んだことがなくてもドラゴンボールについては聞いたことがある」と言うであろうほどの知名度を獲得していることで証明されています。
フランスでのドラゴンボール人気は、アニメ放送をきっかけに1980代終わりに人気が高まり、文化現象と呼ばれるほどになりました。なによりもフランス人の大好きなアドベンチャラスなストーリー展開、決して読者を飽きさせない成長していくキャラクター、作品の中で語られている自由や連帯の尊さ、明るい未来を持ち続ける姿勢、戦闘、ユーモア・・それは、マンガである以上に文学作品であると称され、多くの人々が共感し、励まされ続け、そして発売当初は若者であった人々がこのマンガとともに時代を生きてきたという根強い人気もあります。
今やフランスの書店には、「MANGA」というコーナーが設けられ、かなりのスペースをとっており、現在は鳥山明氏の写真が「HOMAGE」として飾られています。
私がフランスに来たばかりの20年以上前でさえ、すでにメトロの中で日本のマンガ(フランス語訳)を読んでいる人をチラホラ見かけることがあって、「へえ〜?フランス人も日本のマンガ読むんだな〜」とビックリした記憶があります。そして、これは、マンガだけでなく、テレビ、映画やゲーム、フィギュアなどあらゆる角度からぐんぐんフランスに浸透していったのです。
そして、また、この鳥山明氏という人物が、いかにもといったギラギラな感じがなく、表にはあまり出たがらない、一見するところ成功する要素が見当たらなそうな控えめでミステリアスな人物であったことも影響しているのではないか? いかにもニヒルなフランス人の好みで芸術点が加算させられそうな要素でもあるような気がしています。
そもそもフランス人は、日本の文化や芸術に対して、おそらく日本人が想像している以上にハイレベルで上質なものとして捉えるというところがあるのも事実です。この日本文化に対するフランス人の評価の理由は、一朝一夕にして培われたものではなく、もはやDNAレベルなのではないか?と思わされることもあります。
実際に作品自体が並はずれて優れたものであることは言うまでもありませんが、日本人の私が言うのもおこがましく、図々しくもありますが、フランス人は、他のアジアの国々と比べて日本を、別格扱いしてくれている・・という肌感覚はあります。日本の文化を嗜むことは、特にハイレベル、富裕層のフランス人にとってはある種のステータスでもあります。
このドラゴンボール・マンガ人気に関しては、もはやその人気は国民的なもの・・ハイレベル、富裕層などの壁を超えたさらに偉大な存在であったことは、今回の彼の訃報の扱いでさらに明らかになった気がしています。
そして、海外で、フランスでこれだけ評価される作品が日本から生まれたことは、日本人として、とても嬉しいことです。フランスでの扱われ方、この彼の功績を絶賛するような評価を見ていると、まだまだ日本人はすごいポテンシャルを持っている・・なにかと将来が危ぶまれるニュースが多い日本でマンガに関しては、明るい未来が描けそうな、そんな気がしているのです。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR