パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
パリでの日本文化の人気と昭和の匂い
アジア人差別など、アジアを一括りにされれば、問題は多々あるフランスではありますが、フランスでは、同じアジアの中でも日本は、別格な位置付けであることも事実です。以前、職場にいた中国人の可愛い女の子が、「街でフランス人の男の子に声をかけられて、中国人だとわかると、『えっ??日本人じゃないの??』とがっかりされるけど、どうしてだろう?」と聞かれて返答に困ったことがありました。
特に、ここ数年での日本文化の浸透ぶりは、先日、話題になったフランス政府が若者向けに発行した「カルチャーパス」が「マンガパス」と呼ばれるほどに、日本のマンガがフランスの若者にどれだけ浸透していたかを明白にした事象が起こったことからも明らかなように、最初は「オタク」と呼ばれる層の中で広がり始めた日本のマンガやアニメやゲームが現在は、一般的な若者の間にもごくごく日常の一部として定着しています。
ここ数年の日本食ブームも例に漏れず、今やフランスでお寿司を置いていないスーパーマーケットはなく、パリ中、至るところにお寿司屋さん(日本人から見たら、「なんちゃってお寿司」ではありますが・・)があるようになり、パリのラーメン屋さんには、どこのお店でも行列が堪えることがなく、その多くのラーメン屋さんで扱っている「日本の餃子」でさえ、「GYOZA」として市民権を得つつあり、これまた、日本の冷凍餃子がどこのスーパーマーケットにも置かれるようになりました。また、一時は「BENTOブーム」なるものも起こり、日本のお弁当箱やそれをフランス仕様に作り替えられたフォークやナイフのついた大きめのお弁当箱などもギャラリーラファイエットなどのフランスの大手デパートにまで置かれるようになりました。
日本のマンガやアニメなどと同時に日本の食文化も急速に広まっていることをひしひしと感じているのです。
パリにオープンした大人気のラーメン屋さん「KODAWARI RAMEN TSUKIJI」
パリに住む日本人としては、日本食が恋しい気持ちは常にあり、(といっても、限られた食材で工夫しながら、家ではほぼ日本食のようなものを食べているのですが・・)パリのどこどこに、こんな日本食のお店ができたらしい・・スゴい人気らしい・・などという話を聞けば、思わず覗いてみたくなるのが心情ですが、ここ数年でのフランスでの日本食ブームのおかげでパリにも随分と日本食のお店が増えました。
そんな中で、ことさら、いつ行っても、大行列ができている・・最低でも1時間は並ぶらしい・・などという話題のラーメン屋さんがあり、「夏のバカンスでパリに人が少ない時期なら、それほど並ばなくても済むかもしれない・・行くなら今しかない!」と思い立って、先日、行ってきたのです。
パリ1区のオペラ座界隈は、以前から日本人街として有名な場所で、殊にサンタンヌ通りは、日本食・アジア各国のレストランが立ち並び、通りのお店の看板を見るだけでも、ここは日本か?と思うほどの日本語の看板が軒を連ねています。もちろん、その通り近辺には、いくつものラーメン屋さんがあり、食事時にはどこも多くのフランス人が行列しています。並ぶことが大嫌いなはずのフランス人がラーメン屋さんのためならば行列を作るのです。
しかし、今、最高にパリで人気のラーメン屋さんは、サンタンヌ通りから、2本外れた、他にはあまりレストランなどの飲食店もない、ちょっと目立たない通りにあり、そんな通りですから、逆になぜ?こんなところに大行列?と人目を惹き、そのラーメン屋さんのことを知らずに前を通る人々が思わず二度見して通るような妙な目立ち方をしています。もしかしたら、ここが、今、パリで最も行列ができるレストランかもしれません。もっとも、パリの普通のレストランは、混雑するようなお店は予約を受け付けているので、ラーメン屋さんに限っては、予約を受け付けないために、逆にこれほどの行列ができてしまうのかもしれません。
そのラーメン屋さんがパリにある他のラーメン屋さんと、一線を画しているのは、そのお店をオープンしたのが日本でラーメン修行をしてきたというフランス人シェフのお店であることと、その店名「KODAWARI RAMEN TSUKIJI(こだわりラーメン・築地)」のとおり、そのラーメンの独特な味のこだわりはもちろんのこと、フランス人の視点での日本を演出している店内の内装の徹底ぶりです。
店内は、徹底した日本の市場(多分、築地の市場内をイメージしたものと思われる)を細部にわたって再現しており、決して広くはない店内には、わざと雑に積み上げられた「北海道さんま」「丸中しれとこ食品」「鮮さんま 高級鮮魚」などのシールが貼られた発泡スチロールの箱、「築地」と書かれた大きな提灯、束になってぶら下がっている「築地場外市場は移転しません」と書かれたレジ袋、ゴム手袋、今ではあまり見かけなくなった、ぶら下げ式の秤、ポリバケツ、ふぐ、鮮魚に見せかけた魚が乱雑に並んでいて、なぜか「伊藤食品」という大きなエビが描かれた看板、とんかつソースのダンポール、新巻鮭の木箱などなどが所狭しと置かれ、まるでパリの街とは異空間の徹底した昔?の日本の築地市場の雰囲気を演出しています。
座席よりも展示品のスペースの方がもしかしたら多いかもしれない「こだわりラーメン」の店内 筆者撮影
また、店内には、静かなトーンで、築地市場の「らっしゃい〜〜!らっしゃ〜〜い!」という日本の市場独特な喧騒がBGMとして流されており、その中に遠くから聞こえるカモメの鳴き声が追加されたりしている見事な演出ぶりで、ラーメンそのものだけでなく、ちょっとした日本の空間を楽しめるテーマパークというか、アトラクションパークのようでもあります。
私が本物の築地市場に行ったのは、もう20年以上も前のことで、現在の築地がどうなっているのかもわかりませんが、築地市場は、すったもんだの挙句に豊洲に移転しているのだろうし、今の豊洲市場(行ったことはありませんが・・)、きっと全然、違うものになっていると思うのです。
しかし、逆に、フランス人がイメージして日本の市場を演出するのは、こんな感じなのか・・と、また興味深い思いで、フランス人シェフがこだわり抜いた日本から輸入した昆布や椎茸、大豆や、その他、フランス各地からの産地直送の材料で作られている「こだわりラーメン」を満喫してきたのでした。
新たにオープンした日本の駄菓子屋さん
そして、「まるで日本!」というお店はラーメン屋さんだけではありません。昨年からのパンデミックで度重なるロックダウンのために、パリでは、しばらく街に出なかった間に、多くのお店が閉店し、代わりに新しいお店をちらほらと見かけるようになりました。現在、ヘルスパスさえあれば、ほぼ日常と変わりなく生活ができるようになり始めているパリの街を歩いていると、「あれ?ここにこんなお店、あったっけ?」と思うお店もポツポツと見つけます。
ある時、その中に「CONCEPT STORE JAPONAIS」(コンセプトストア・ジャポネ)という看板のお店を見つけて、「日本のコンセプトストアって何を置いているんだろう?」と興味を持って、足を踏み入れてみたのでした。すると、店内の半分以上が「日本の駄菓子・スナック菓子」などで、これがまたお客さんのほとんどがフランス人。私もパンデミック以来、日本へ行けていないので、今の日本に駄菓子屋さんなるものがあるのかどうかわかりませんが、少なくとも、2年ほど前に行った時には、そんなお店を目にすることはありませんでした。(多分に私の日本での行動範囲は極端に限られているので、私の知る地域だけかもしれませんが・・)しかし、私が子供の頃には見かけていたような「日本の駄菓子屋さん」をなんとパリで見つけたのです。
子供の頃でさえ、それほど駄菓子屋さんに通ったというわけでは、ありませんでしたが、軒並み並ぶ日本の駄菓子・お菓子にちょっとワクワクするような気分になりました。「今でも、こんなのあるんだ・・」という駄菓子から、「今は、こんなお菓子があるんだ!」とか、こちらでも人気のあるポッキー(フランスではMIKADOという名前で普通のスーパーマーケットでも売られています)やキットカットでも、さすがの日本版、こんなフレーバーのものもあるんだ!と大興奮! しかし、そんな日本の駄菓子屋さんは、私のような在仏日本人がターゲットではなく、顧客のほとんどはフランス人で、しかも、結構な賑わいぶりでした。これがまた、日本人経営のお店かと思いきや、フランス人オーナーのお店でした。
もちろん、そのお店は日本の駄菓子だけではなく、日本のお弁当箱やお箸、招き猫の小物や、日本の靴下、保温マグやおにぎりを作るケースや日本語の教材までもが取り揃えられていましたが、お店の大半を占めるのは、日本のお菓子で、しかも、日本のマンガ・アニメ・ゲーム好きの人を取っ掛かりにしているのか、マンガやアニメのキャラクター(ポケモンやスーパーマリオやドラえもんやピカチューなどなど)のパッケージのお菓子なども多数、取り揃えられています。
しかし、そのなんとも言えない「昔の駄菓子屋さん」のような雑然とした商品の展示の仕方、店内のスペースに対して、圧倒的に商品の種類が多い様子などが、フランスの一般的な店舗とは違う、そしてきっと現在の日本とも違う独特な雰囲気を醸し出しているのです。
フランス人が心惹かれる日本のイメージは昭和の日本
先日の東京オリンピックの際にも感じたのですが、フランスのテレビ局が用意したオリンピック中継の解説用のスタジオのセットは、東京湾に浮かんでいるように見える幻想的なものでしたが、東京湾の背景に見える景色は、ライトが散りばめられた高層ビルが立ち並ぶ東京の街と東京タワーが使われており、スカイツリーではありませんでした。フランス人にとって、東京のシンボルは、やはり東京タワーなのだということをフランスでの東京オリンピック中継のセットであらためて思い知らされた気持ちです。まあ、考えてみれば、フランスのシンボルでもあるエッフェル塔が他のものに置き換えられるなどとは、絶対にあり得ないことで、これまで君臨してきた東京タワーがそう安安とスカイツリーに置き換わることはないのかもしれません。
また、現在、フランス人で溢れかえる人気のラーメン屋さんを見ても、新しくパリにオープンした「日本の駄菓子屋さん」にしても、あれは、どう見てもまさしく「昭和の日本」の風景です。「平成」という時代の大部分と「令和」になってからの日本には、住んではいない私ですが、それなりに日本の変化も見てきましたが、現在の日本の風景ではありません。
フランス人には、どこか古いもの、歴史のあるものを尊ぶところがあり、また、人情味が感じられる部分を好むという一面がありますが、まさしく今、フランスで人気を呼んでいるのは、昭和のどこか下町風情を感じられるような日本の懐かしい風景なのかもしれません。
日本はフランスには、好意的に受け入れられている国であり、このように日本の文化が今やフランスの文化の一部として、浸透、定着してきていますし、日本という国を知らないフランス人はいません。しかし、一方で、想像以上にフランス人は日本のことを知らないというのも事実です。
しかし、このようなフランスに続々とできている「日本」を演出したお店を見ていると、フランス人の目を通した「日本」が見えてくる気もするのです。そして、ひょっとしたら、以前よりも、便利になり、整然として、洗練された現在の日本よりも、「昭和の日本」の方が魅力的だったかもしれない・・そんなことを最近のパリの日本文化の拡がりを見ながら、ふと思ったりもするのです。
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著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR