パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
軌道に乗り始めたフランスのワクチン接種とレストラン・カフェのテラス席再開
フランスのワクチン接種が開始されたのは、昨年の12月のことでした。当初フランスでは、高齢者施設の居住者(それまでに最も被害が大きかったため)が最優先とされていたものの、年末年始にかけて進められていたと思われていたこの対象者へのワクチン接種が1ヶ月の間に家族の同意書がスムーズに取れなかったり、ノエルのバカンスが挟まったりしたこともあり、年明けになって、他のヨーロッパ諸国に比べて大きく遅れをとっている事が発覚し、大バッシングになり、急遽、ワクチン接種の対象者を拡大し、もう毎日毎日、入れ替わり立ち替わり、首相や厚生相などがテレビに登場しては、とにかく今年は、「ワクチン!ワクチン!ワクチンが最優先事項!」と、ワクチン接種大キャンペーンが始まりました。
それでも、途中では、アストラゼネカのワクチンの副反応が問題になったりして、国民が疑心暗鬼になった時期もありましたが、首相や厚生相自らがアストラゼネカワクチンを自分が接種する模様を報道したりして、ワクチンの安全性をアピール。ワクチンも一般の開業医、薬局に加えて、大きなイベント会場、スポーツが行われるドームなどがワクチンセンターになり、ワクチン接種がグングン進んで行くようになりました。
当初は、ワクチン接種の予約も電話が繋がらないとか、ネットがアクセスできないなどと、もたついている感じもありましたが、政府とは無関係だったコンピューター工学を学ぶ24歳の青年が立ち上げたコビット・トラッカーというサイトを立ち上げ、いつでもワクチン接種の空き状況を確認でき、容易にできるようになり、ワクチン接種がグングン進み始めました。サイトを開いて、自分の住んでいる地域を入力すると、最短でここの場所のこの時間で、このワクチンの接種が可能ですというデータが出てきて、本当に携帯でもパソコンでも簡単に予約ができるようになっています。政府がダメなら、自分でやろうと行動を起こすそのバイタリティーと、結局は、政府もそれを柔軟に受け入れる姿勢がフランスのワクチン接種の拡大に繋がっています。また、フランスに既存しているカルト・ヴィタルと呼ばれる各々が所持しているカードによる健康保険のシステムも個人個人のこれまでの病歴や投薬状況が履歴として残っているために、ワクチン接種に関してもこのカードを利用して行うことができているのも役立っています。
フランスの緩さがワクチン接種拡大に幸いしている
とはいえ、フランスは、イギリスやアメリカ、イスラエルのようにまでは、ワクチン接種が進んでいるわけではありませんが、5月15日の段階でフランスのワクチン接種人口は、2千万人を突破、現在(5月22日現在)では、2,258万人、全国民の33.71%にまで達しています。ワクチンは、保管温度や一度開封したものをすぐに使わなければならないため、予約が入っていても、ドタキャンでワクチン接種に来なかった人の分のワクチンが無駄になってしまうため、ワクチンセンターには、残りのワクチンのおこぼれに預かろうとする人の行列ができていて、現時点での対象者以外の若い人もワクチンを受けられるようになっています。このあたりは、フランスのあまりきっちりし切らない、ルールがあってもないかの如く、横入りが当たり前のような日常の習慣のいい加減さが幸いしているのかもしれません。実際に、私が以前、パンデミックが始まった頃にかかりつけのお医者さんにワクチン接種について尋ねた時に、「私は、既往症があって、リスクが高い人として認められますか?」と聞いた時には、「あなた程度の人は、山ほどいるから、リスクの高い人には入らないわよ!」と言われていたのに、その線引きも曖昧で、今年の2月半ばになったら、「あなたは、ワクチン接種を受ける権利があるけど、どうしますか?」とお医者さんの方から声をかけてくれたぐらいで、(多分、開業医のために一回開けたワクチンを使い切るための人集めだったと思う)あっさり、ワクチン接種が受けられてしまったのです。まだ20代の娘でさえも現在のスタージュの仕事の関係でワクチン接種ができてしまっています。
ワクチン接種拡大とともに下がり始めた感染
フランスは、5月に入ったあたりから、感染者数、集中治療室の患者数もみるみる減少してきており、これは、4月までのロックダウンの効果ももちろんあるのでしょうが、ワクチン接種の拡大の効果であるとも言えると思います。4月の初め頃には、一時、1日の新規感染者が6万人を超え、集中治療室の患者数も6千人近くまで膨れ上がり、ICUの占拠率は150%近くまで上昇していたものの、現在では、日々、確実に減少を続け、現在は、1日の新規感染者数は、1万人台までに下がり、集中治療室の患者数も3,500人までに減少し、コロナウィルスのために延期され続けてきた手術などが行われるまでに回復し始めました。
感染減少で、ロックダウン解除の第2段階 レストラン・カフェのテラス席再開
感染が減少してきたことで、フランス政府は、描いていたロックダウン解除の予定どおりに、5月19日には、半年以上ぶりに、制限付きではあるものの、レストラン・カフェのテラス、美術館、映画館、劇場、一般の生活必需品以外の商店、デパート、コマーシャルセンターの再開、夜間外出禁止時間の延長に踏み切りました。これまで正直、ゆるゆるなロックダウンだ・・と思っていた私でも、さすがにこれらが全て、再開されてみて初めて、こんなに多くの施設が時短営業などではなく、完全閉鎖だったわけですから、やっぱり、ゆるゆるでもなかったかな?と感じています。
5月19日には、もうそれは、新しい年を迎えるカウントダウンのような盛り上がり様で、お祭り騒ぎ、悪天候にも関わらず、嬉しそうにレストランやカフェのテラス席はどこも超満員で、中には、ハメを外しすぎる若者たちも続出し、夜9時になっても(現在でも夜9時以降は外出禁止)帰らずにレストランを出た後、レイブパーティーが始まってしまったり、興奮して、広場で廃材を燃やし始めたりして騒ぎまくる人が現れて、警察だけでなく消防隊も出動する大騒ぎになっています。フランス人は、デモなどの抗議の場でもゴミ箱を燃やしたり、車を燃やしたり、今回のように嬉しくてはしゃいでも廃材とはいえ、火をつけ、どうしてこうも興奮すると何かを燃やし始めるのか?と、呆れます。
#IlleetVilaine 26 bars mis en demeure après les débordements, une fermeture administrative à #Rennes https://t.co/ZynXhc84ax pic.twitter.com/7qZkP93d7t
-- France Bleu Armorique (@bleuarmorique) May 22, 2021
レストラン・カフェなどは、再開とはいえ、衛生管理にまつわる制限も多々ある中、お客さんが従わなければ、再び営業停止になってしまうのですから、レストラン側も必死でもあり、また、5月にしては、気温もまだまだ低く、ここのところの悪天候に備えて、雨避けのテラス席を緑をあしらったりしながら、おしゃれに準備し、また、新しいパリの風景が楽しめています。パリってやっぱりおしゃれだ!テラス席もただのテラス席ではなく、美しく作り上げてしまうのですから、そんなところは、パリの好きなところです。
これってテラス??と思うようなテラス席 筆者撮影
地域によっては、お店の前のテラス席だけではなく、通路全体がテラスになっていたり、道の反対側までがテラス席になっていたりして、結果的には、店内のスペースよりも客席が確保できているのではないか?と思われるレストランも多く、これまたテラス好きのフランス人のこと、ここぞとばかりに新しいテラス空間を楽しんでいます。まるで水を得た魚のように夢中でおしゃべりをしながら、食事を楽しむ人々の光景に、「あ〜これがパリだ!日常が戻ってきた!」と、どこかほっこりするのと同時に「フランス人には、黙食はあり得ない!」とあらためて思わされたのでした。フランス人にとっての外食は、食べることと同じくらいに「喋ること」なのです。
ゆったりした道路の反対側に用意されたテラス席 お店の前と横にもテラス席があり、これなら店内よりも席数は多い 筆者撮影
日常生活が戻っても、心配は尽きない <ボルドーで新しい変異種の出現>
今は、感染者もグングン減少して、閉ざされていた日常が戻ってきて、あたりまえだったはずの日常を取り戻しつつあるフランスではありますが、減少傾向にあるとはいえ、感染状態は、未だ決して低くはない状態でのロックダウン解除ですから危険は大いにあります。アメリカやイギリスのようにワクチン接種もかなり進んでのロックダウン解除とは違い、フランスは、感染状況が充分には減少しきっていない状態でのレストラン・カフェ、文化施設、一般店舗の再開ですから、今後のワクチン接種の拡大以上に人が急激に動き出したことは、また、いつ感染状況が増加に転換してしまうのではないかと、本当にビクビクしています。このロックダウン解除での国民の喜び、はしゃぎ、ハメを外す様子に、それを咎めるのではなく、政府は、翌日に、当初の予定を大幅に繰り上げて、5月31日からは、18歳以上の全国民に対して、ワクチン接種ができるようになることを発表しています。実際に外に出て、人とより多くの関わりを持つのは、これまで一般的には、ワクチンができなかった若い世代であるためだと思われます。
そんな中、先日、ボルドーの北部バカラン地区でこれまで検出されてこなかった新しい変異株が見つかり、このために46人のクラスターが起こっていることをフランス保険当局(Santé Publique France SPF)が発表しています。ウィルスは変異を続けるものではありますが、陽性かどうかのテストは、広く行われていても、その感染がどの変異種によるものなのかの究明は進んでいないのが現状で、この新しい変異種(イギリス変異種による変異形と言われている)がどの程度の感染力を持ち、どの程度の危険を孕んだものであるのかは、今のところ確認はされていません。しかし、幸いなことに現在、この新しい変異種による感染者で重症患者は出ておらず、今のところ感染者も若者だけに限られているため(ワクチン未接種者)、ワクチンによってこの変異種から守られているのではないかという見方もされています。このSPFの発表直後に、政府は、この地域に対してのワクチン供給を当初の予定に加えて、1万5千人分のワクチンを提供し、地域限定で、5月31日を待つことなく、18歳以上のワクチン接種を許可しています。
しかし、次から次へと現れる変異種とともに、ロックダウンを解除した結果が見えるのは、まだ、少なくとも2週間以上は先のことです。この間にも少しでもワクチン接種が拡大し、どうかまた元の状態に逆戻り、なんてことにだけはならないようにと祈るばかりです。
フランスでの日常では、全てがスムーズに行かないことの方が多く、「ここは日本じゃないんだから仕方ない・・」と思うことの方が多いのですが、ワクチン接種に関してだけは、珍しくフランスにしては、順調に軌道に乗り始め、奇跡的な状況・・最近、日本に本帰国(一時帰国ではなく)してしまった友人が、「ああ〜ワクチンをしてから、日本に帰ればよかった・・」とぼやいています。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR