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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

「男に料理を作るな」彼氏に尽くすスペインインフルエンサー炎上

©️YouTube - SrWolfPodcast #1 “Roro y Pablo”

自由に自分の好きな事を発信できるソーシャルメディア。自由度が高い反面、匿名で閲覧やコメントができるということで投稿が拡散され、誹謗中傷などのネガティブな意見が集中してしまう「炎上」という現象も時に起きてしまうようです。

今スペインではとある女性のコンテンツがネット上で炎上し、その炎上理由が世間で話題を呼んでいます。話題になっている女性はロロことロシオ・ルシア・ブエノさん(22歳)。料理好きな彼女は、よく自身の手の込んだレシピを紹介したり、ドレスを手作りする様子などクリエイティブなコンテンツをtiktokを通して発信しているのですが、彼女のコンテンツが一部の人から痛烈な批判を浴びているのです。

 

パブロのために・・・

ロロの投稿するビデオやよくこんなフレーズで始まります。「パブロが食べたいと言ったので・・・」「パブロに頼まれたので・・・」「パブロの好物なので・・・」。彼女がよく口にするこのパブロという人物は彼女が学生時代から交際している彼氏のこと。そう、ロロは彼氏のパブロのために作る料理をtiktokに投稿しているのです。ただ彼女が普通と違うのは、パブロがパスタを食べたいと言った時にパスタを茹でることから始めるのではなく、パスタを小麦粉から作り始めること。パブロがパッパルデッレ(イタリア トスカーナ地方のパスタ)が食べたいと言ったときは、パスタだけでなくチーズすらも牛乳から作ってしまうほどのこだわりっぷりを見せました。また「パブロがレストランに食事に行こうと誘ってくれたのでワンピースを作ります。」「パブロとデートに行くのに口紅がなくなってしまったので先日プレゼントしてくれたバラの花を使って手作りしたいと思います。」と、パブロのためならロロはとことんこだわってしまうようです。さてこういった微笑ましいような内容の投稿が、なぜ今スペイン語圏で拡散され批判の的となっているのでしょうか。

話題になったロロの動画

 

批判の理由は...

ロロが批判を受けている理由は、ロロが「男性のために何かをしているから」。スペインは女性の権利を男性と同等にしようというフェミニズム運動が盛んな国。首相もフェミニストを公言しており、フェミニストであるということが政治において大いに有利になるような国なのです。男性と女性は同等でなければいけないという考えが強いスペインでは、ロロのしていることはとても目立ち、また時代遅れだと捉えられてしまう人も少なくありません。「奴隷」「男に従順すぎる」コメント欄にはロロを否定するコメントが投稿され、ロロを面白おかしく真似たパロディ動画もたくさん現れる様になりました。また「パブロは何してるの?」「彼氏もなんかしろよ」と、批判の矛先はパブロにまで向けられるようになったのです。

 

トラッドワイフ

トラディショナル・ワイフ(伝統的な妻)の略語であるトラッドワイフ。「女性は家事にいそしみ夫に尽くす」という昔の価値観に沿ったジェンダーロールを実践している女性のことを指します。数年前アメリカでこのようなライフスタイルを発信するインフルエンサーが話題となりましたが、ロロを批判する人の中には彼女をスペイン版のトラッドワイフだと言い張る人もいます。またトラッドワイフは、夫に魅力的に見えるよう高い幼い声で穏やかに話しますが、ロロの話し方もトラッドワイフの話し方と似ていることから「男に媚びている」と批判の声があがっているようです。

左派マスマドリード党のリタ・マエストレ議員は名指しにはしないものの遠まわしにロロを意図して「トラッドワイフの動きがスペインにもやってきた」と自身のSNSで指摘。ロロのようなトラッドワイフの話口調を話題にだし「結局はいつも一緒。残念ながら、このような男性に従順で物腰の柔らかい女性の役割を私たちに求めている人がいるけど、私には期待しないでほしい」とネガティブなコメントを残しました。

アメリカで話題になったトラッドワイフインフルエンサー

 

ただ料理が好きなだけ

ロロの存在はたちまちネット上に知れ渡り、有名なインフルエンサーも話題としてロロを取り上げるようになりました。注目はSNSの世界だけに留まらず国内メディアでも彼女に関する記事が続々とアップされるようになったのです。

これまで言われたい放題だったロロは、最近になってテレビ番組やポットキャストにゲストとして出演するようになり、この騒動について自身の口で語る様になりました。「私は料理を作るのと、自分の料理で人を喜ばせることが好きなだけ」とインタビューでトラッドワイフでない事をはっきりと主張しています。それだけでなく「私は自分をフェミニストだと思うけど、道端で私に奴隷だと叫んできたりフェミニズムの足を引っ張っていると言ってくる様なフェミニストとは違います。フェミニズムというのは女性がジャッジされることなく好きなことができる権利を守ることであって、そう言ったフェミニストたちは私が好きで料理をしているのにそれを尊重してくれないから」と、度を超えたフェミニズムに対抗しました。

7月24日に行われたインタビューではロロと一緒に彼氏のパブロも登場し、何もしない彼氏というレッテルを貼られていることに対し「もし何もせずソファに一日中寝転がっているような彼氏だったら、ロロは一緒にいないと思うよ」と笑って見せ、ロロも「パブロは片付けを担当している」と彼らの中でしっかりと役割分担がある事を明らかにしています。このインタビューをきっかけにロロを擁護する人たちがたくさん声を上げ始め、彼女の動画のコメント欄のネガティブなコメントはたちまち擁護のコメントで埋もれていってしまいました。

女性が料理しようが男性が料理しようがその人の自由。女性の権利を守ることは大事ですが、女性と男性のジェンダーロールを逆転させることが正しい社会だとは思いません。本当のフェミニズムというのはロロが言うように「女性が他人の目を気にせずに自由に好きなことができる」と言うこと。誰が誰のために料理しようが、他人が口を出すようなことはあってはいけないことなのです。

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インタビューに答えるロロとパブロ©️YouTube - SrWolfPodcast #1 "Roro y Pablo"
 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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