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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

スイカが消えたスペインの夏 スペイン農家の生存危機

©️iStock - Joa_Souza

この夏3度目の熱波に襲われているスペイン。場所によっては44度を超える暑さが予想され、13の自治州に猛暑警報が発令されています。私が住んでいる街は警報レベルが黄色なのでこの熱波の影響を最大限に受けているわけではありませんが、それでも昨晩は深夜になっても気温が30度からなかなか下がらず寝苦しい夜を過ごしました。この異常な暑さはスペインに限らず、イタリアやギリシャなど他のヨーロッパ諸国でも記録的な暑さを記録しているようです。ここ数年、この時期になると熱波と干ばつの話題で持ちきりになってしまうヨーロッパ。スペインでは今年、夏によく食べられる定番の食べ物がピンチを迎えています。

 

スイカとメロンが不作

日本と同じように、毎年この時期スペインではスイカやメロンが旬で安いためよく食べられているのですが、今年はこれらの果物が異常気象により不作となり、値段がこれまでに無いほどに高くなってしまっているようです。スペイン南東部のバレンシア市にある中央市場では、毎年スイカは1キロ80セント、メロンは1キロ1ユーロ程度で販売されていましたが、今年は1キロ3ユーロと価格が3倍に膨れ上がってしまっています。この話題はスペインのローカルニュースでも取り上げられ、買い物客たちはインタビューで口々に「とてもじゃないけど買えない」と落胆した表情を浮かべていました。

今年のスイカとメロンの不作の原因はやはり今年の異常気象が大きく関連しています。スイカやメロンの植え付けが行われる5月、スペインでは今年この時期には珍しく大雨が降る日が続きました。時にその雨は雹に変わり、たくさんの農家が植え付けに失敗してしまったのです。そしてその後に追い討ちをかけるかのように訪れた高温と干ばつによって、多くのスイカとメロン農家が膨大な被害を受けてしまいました。さらに不作の原因は天候だけに限りません。スイカやメロンの成分はほとんど水分。そのため野生のイノシシが喉の渇きを潤すため畑に侵入し、この悪天候の中生き残ったスイカとメロンを食い荒らしてしまったことでさらに収穫の量が激減してしまったのです。これらによって、今年のスイカとメロンの生産量は例年の50%から60%減。農家の損失額は4400万ユーロになると言われています。

↑イノシシに食い荒らされたメロン

  

モロッコの急成長

スペインのスイカ農家の危機は天候や獣害に限りません。近年スイカをはじめとする農産物の生産量を急激に伸ばしてきているのがお隣の国モロッコ。最低賃金が1日7ユーロとスペインの時給よりも安いため生産コストを低く抑えることができ、なおかつヨーロッパから距離が近く輸出しやすいということから最近モロッコの農業がグイグイとチカラを伸ばしてきているのです。干ばつによる不作や最低賃金が年々引き上げられていることから苦しい状況を強いられているヨーロッパの農産業。モロッコ政府はこのチャンスを逃しません。これまでスペインやイタリアで栽培されてきたトマトやオリーブオイル、柑橘類などを安く生産し、ヨーロッパだけでなく米国やロシアなど世界中に輸出をはじめているのです。

隣の国で安く購入できるとなれば、市場業者はモロッコの野菜を買い付けます。今年6月、グラナダ市でスイカ農家を営むマヌエルさんがニュースで大きく取り上げられました。マヌエルさんは「モロッコやセネガルがスペインの市場を侵略し始め、それによってスイカの価格が暴落している。」と主張。手塩にかけて育てた出荷前の10万キロのスイカの買い手が見つからず、廃棄するよりはマシだとしてそれらを近所の人に無料で配布しました。モロッコの影響を受けている農家はマヌエルさんに限りません。「大手スーパーはモロッコから安く買い付け、あたかもスペイン産の様に売っている」と他のスイカ農家は訴えます。この報道によるとスペインで食べられているスイカの3つに2つはモロッコかセネガル産とのことです。

↑マヌエルさんがスイカを無料配布する様子

6月にドイツがスペイン産イチゴのボイコット運動を行った時も、スペインの農家が危惧したのはモロッコ産イチゴのヨーロッパ市場進出でした。この様に市場が他国から農産物を輸入し続けることによって、国内の農家が生産をやめてしまいいつか国内産の青果がスーパーから消えてしまうことに繋がりかねません。農業はスペインの経済を支える産業の一つ。色々と不安定なこのご時世、国内農業の保護は本来チカラを入れるべきテーマなのではないでしょうか。

IMG_5635.jpg

スーパーに並んだスイカ。1キロ1.55ユーロ。産地は不明(筆者撮影)
 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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