日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
コロンビアでも不作?どうなるコーヒーの値段
以前ブラジルの降霜と干ばつが主に影響し、コーヒーの価格が高騰しているという話題を取り上げました。(ブラジルで霜害!コーヒー価格が高騰した3つの理由)
2018年と比べると国際市場価格は2倍以上に跳ね上がり、これはブラジルを除くコーヒー生産国には喜ばしいニュースだと思われたかと思います。しかし、コーヒー生産量世界3位を誇るコロンビアでも深刻な異常気象がコーヒーの生産に大きな影響を及ぼしているのです。
異常な雨
コロンビアではここ最近雨の日が多く、人々の暮らしに様々な影響を与えています。
コロンビアの災害リスクマネジメントシステム(UNGRD)の発表によると、9月1日から20日の間に19の県で85件の水害が報告されており、この20日間だけで8,134世帯の家族に影響を与えたの報告がありました。既にコロンビアの気象機関IDEAMは年末にかけて降水量が歴代平均の40〜60%増加するだろうとの予想を発表しており、被害はこれから益々増加していくのではないかと思われます。
この異常なほどの大雨にはラニーニャ現象が関係していると言われています。ラニーニャ現象は南米沖の海面水温が平年より低くなる現象で、この現象が発生するとコロンビアでは降水量が平年時よりも多くなるのです。
ラニーニャ現象は去年の半ばごろに発生し今年の5月に収束したとの発表がありましたが、アメリカの国立気象庁は9月に再びラニーニャ現象が発生する可能性が70〜80%あり、それは来年の年明けごろまで続くだろうとの予想を示しています。コロンビア国内にはこのラニーニャ現象は来年4月まで続くと予想している気象機関もあり、全国に警戒を呼びかけています。
Es casi inminente la llegada del fenómeno de 'La Niña' a Colombia. Esto es lo que dicen los expertos https://t.co/qcND7e59Bu pic.twitter.com/kcRv2K2v5y
-- EL TIEMPO (@ELTIEMPO) September 12, 2020
コーヒー産業に与える影響
コーヒー生産量世界第3位のコロンビアですが、今年8月のコーヒー生産量は91万5千袋と昨年比の16%減という結果になりました。今年の1月から8月にかけての生産量の累計も昨年に比べて8%減となっています。
私が住んでいるアンティオキア県に本社を置くEL COLOMBIANOの記事によると、これからコーヒーの大規模な収穫期を迎えるアンティオキア県ではこの雨の影響で収穫量が40%減少する可能性があるのというのです。
コーヒーの栽培に最適な条件は気温21度程度、日照時間年間1800時間、降水量年間1500〜2000mm程度と言われているのですが、昨年から続くラニーニャ現象の影響で日照時間が圧倒的に少なく気温が低かったことがこの生産量の大幅な減少につながっていると考えられます。
コロンビアでは、コーヒーの木は乾季に水が不足する水ストレスによって花が一気に開花し、8ヶ月かけて実をつけ熟していくのですが、今年の開花シーズンは雨が降り続いていたため例年の様な花の開花を見ることはありませんでした。
1枚目は2020年3月3日、2枚目は2021年3月3日確かに今年は去年ほどぎっしりの花は見なかった。日照時間の少なさが生産量にかなり影響しているのがよくわかるhttps://t.co/cOCqucvQ13 pic.twitter.com/eNqvZxV0Ht
-- Ayakaコーヒー農家 (@maon_maon_maon) September 23, 2021
また、この生産量の減少は雇用にも影響を与えます。収穫期に入ると、コーヒーを摘むコーヒーピッカーとしての職を求めてコロンビア全国からコーヒー産地に人が集まるのですが、今年は収穫が少ないためコーヒーピッカーの需要も低下しています。収穫に慣れた人ならこの時期にまとまった収入を得ることができるので、安定した職に就いていない人や海外からの難民にとっては稼ぎ時とも言える時期なのですが、今年はそういった人々にとっても苦しい年となるでしょう。昨年のこの時期は頻繁にコーヒーピッカー募集の求人を目にしていましたが、今年はまだ一度も見ていません。
また生産量や雇用以外にも、土砂崩れによって道路が塞がれコーヒーを運び出すことができなかったり、肥料の値段高騰で生産コストが上がったりとネガティブな要素が重なってしまっているので、今回の市場価格の高騰はコロンビアにとってはそこまでプラスとなったとは言えなさそうです。
このコーヒー生産量減少についてのEL COLOMBIANOの記事は、私の個人のブログで全文和訳を載せているので、気になる方はぜひ目を通してみてください。(こちらからどうぞ)
これからのコーヒー価格は?
世界で再び経済が回り始め、コーヒーの需要が高まっている中でのアラビカ種コーヒー生産国トップ2の不作。日本では大手のUCC上島コーヒーやキーコーヒー、味の素AGFなどが既にコーヒーの値上げを発表していますが、需要と供給のアンバランスから世界的にコーヒー不足が起こることは避けられないでしょう。
しかし、価格の上昇は永久的に続くわけではありません。この市場価格高騰を受けて生産国では今たくさんの人がコーヒーを植え始めており、それらのコーヒーが育ちブラジルが生産量を持ち直せば今度は需要過多となり、それが価格の暴落に繋がるのです。したがって、この価格高騰はせいぜい来年まででそこから徐々に下落していくのだろうと個人的に予想しています。
気候と価格の乱高下に振り回されるなんてコーヒー農家は楽じゃないな、と今日も止まない雨の音を聞きながらこのブログを書くのでした・・・。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon