England Swings!
マーマレードは春の予感
伝統的には、この国ではマーマレードは朝食に食べることになっていて、イングリッシュ・ブレックファーストのトーストにもマーマレードは欠かせない。ホテルではイチゴやラズベリーのジャムも一緒に出されるけれど、朝はマーマレード、午後のお茶にはベリー類のジャムというのが基本のようだ。確かにお茶の時間に出てくるスコーンにマーマレードを塗るところはあまり想像ができず、スコーンにはやっぱりジャムが合う(あ、でもマーマレードを使ったケーキはある)。何より柑橘系のさわやかな甘さは1日の始まりにぴったりという気がする。
家庭で作るマーマレードのレシピは限りなくありそうだ。どの柑橘系のフルーツを使うか、他のフルーツを混ぜるか(ベリー系を混ぜるのも味わい深い)、白砂糖で明るい色に仕上げるか、黒っぽい砂糖でコクを出すのか、刻んだ皮(ピール)を入れるか入れないか、入れる場合は厚くカットするか薄切りにするか、リキュールを入れるか(ジン、ラム、ウィスキー、手作りの果実酒など、ほぼなんでも!)、などなど、自分好みの味に仕上げられていく。ここで個性が出るのもおもしろい。
わが家のマーマレードシェフは下戸のくせに料理に酒を使うのが大好きで、マーマレードにも何かしらをたっぷり入れている。スコットランドを旅行したときに雰囲気に飲まれて買い込んでしまったシングルモルト・ウィスキー、わたしの母が漬けた梅酒、本からヒントを得たリキュール。それをなにやら嬉しそうに話すので、友人の間では「お酒を食べる人」と認識されている。
先ほどマーマレードにはゼリーの固さの食感が大切と言ったけれど、皮をどんなふうに刻んで入れるかというのも食感にもちろん大きく影響する。わたしはほんのり苦いピールを噛む感覚が好きなので、皮を厚めに切ってもらっているけれど、夫の娘たちはふたりとも「皮はキライ派」で、彼のマーマレードを食べるときにはピールをよけているらしい(「いらない」と娘に言われたこともある気の毒なパパよ)。
あるとき友人からいただいたマーマレードは、ふるふるとゆるめの食感だった。わたしは厚いピールが好きと言ったけれど、そのマーマレードには薄い薄いピールが入っていた。でもそれがやわらかいゼリーとぴったりマッチしていて、自分でも驚くほど好きになってしまった。きっちり同じ形に刻まれたピールが入ったマーマレードは、繊細でやさしい彼女そのままだった。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile