トルコから贈る千夜一夜物語
トルコの伸び~るアイスクリームの秘密に迫る旅
どんどん有名になるマラシュ・ドンドルマ
現在、カハラマンマラシュからはこのマラシュ・ドンドルマが 35 の国々へ輸出されています。アメリカ、ロシア、アラブの国々、デンマーク、ドイツ、ポーランド、キプロスなどなど。
カハラマンマラシュには老舗のアイスクリーム店があります。Yaşar Pastanesi というお店で、この店の現在のアイスクリーム職人は 4 代目だそう。オーセンティックなマラシュ・ドンドルマが提供されるので、いつも賑わっています。
この 4 代目の職人のうち 2 人の兄弟が MADO(マド) というカフェ兼レストランを開業しました。MADO の「MA」はマラシュの「マ」、「DO」はドンドルマ (トルコ語でアイスクリームの意味) から取られた「ド」です。現在、MADO はトルコ中に展開しており、最近では海外にも進出しています。その支店の数はトルコ国内と世界 22 か国で 400 ほどだそうです。
この MADO では、正真正銘のマラシュ・ドンドルマを食べることができます。トルコにいらっしゃったら、カハラマンマラシュに足を運ばれなくても、どの都市でもこの MADO でマラシュ・ドンドルマを堪能していただけます。
マラシュ・ドンドルマの人気に伴い規制される Salep の輸出
トルコに生息する Salep の原料となる幾つかの野生ランは絶滅の危機にさらされています。カハラマンマラシュのアイスクリーム製造者によっては、自分たちのファームを持ち野生ランを生育しているところもあるようです。こうした野生ランはワシントン条約に含められています。ワシントン条約は、正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約 (Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」と呼ばれます。トルコの野生ラン、つまり Salep も国際取引の規制の対象になっています。
そのため、トルコ以外の国で「トルコ風アイス」や飲み物としての Salep が売られていても、ほとんどの場合、増粘剤が使われているだけです。
マラシュ・ドンドルマをさらに有名にする試み
この記事の最初で、「トルコで売られているアイスクリームがすべてこのマラシュ・ドンドルマではありません」と書きました。トルコでは様々なフレーバーのアイスクリームが売られていますが、そのすべてに山羊のミルクが使われているわけではなく、牛乳が使われているものが圧倒的に多いです。
ですから、本物のマラシュ・ドンドルマを食べたいと思われる場合は、MADO でマラシュ・アイスクリームを注文されるか、あるいはベンダーに山羊のミルクを使っているアイスクリームを指定していただく必要があります。「マラシュ」という名前を使いつつも、山羊のミルクを使っているとは限りません。ですから、トルコでアイスを食べたからそれがマラシュ・ドンドルマではないということだけ、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。トルコ人の中にも、トルコの一般的なアイスとマラシュ・ドンドルマの違いを理解していない人がいます。
このため、カハラマンマラシュではマラシュ・ドンドルマの知名度を上げるために、毎年アイスクリーム・フェスティバルを開催しています。コロナ中の 2 年間はこのフェスティバルが見送られましたが、今年は開催されるようです。アイスクリーム職人たちがそれぞれのブースで自分たちの作ったマラシュ・ドンドルマを売り出し、買い手たちは味を比べます。
ひとことでマラシュ・ドンドルマといっても、職人さんによって味が異なります。山羊のミルクを温める温度や冷却方法など、製造業者によって企業秘密があるようです。私はカハラマンマラシュに足を運んで 3 つの異なるお店のマラシュ・ドンドルマ (味はサーデ) を食べ比べましたが、一番気に入ったのは老舗の Yaşar Pastanesi の味です。とにかく上品な味で、オーガニックそのもの。胃にもたれないので調子に乗って 1 日に 4 回もアイスクリームを (しかも大量に) 食べるという暴挙に出ましたが、さすがに食べ過ぎで翌日にお腹を壊した...というオチ付きです。
トルコのアイスクリームの食べ方
マラシュ・ドンドルマではないにしても、トルコで食べるアイスクリームには Salep が使われているため弾力があって溶けにくい特徴があります。トルコでは夏になると屋台式のアイスクリーム屋さんをあちこちで見かけます。
こうした屋台式のアイスクリーム屋さんの場合、幾つかのフレーバーを組み合わせて、2 段、あるいは 3 段のアイスクリームを食べるのが一般的。マラシュ・ドンドルマの場合は、お皿にアイスが乗っていてフォークとナイフで食べる食べ方が一般的。その際、バクラヴァなどのスイーツと一緒に食べるのもトルコ人にはとても人気。いくらアイスクリームがオーガニックとはいえ、甘いものが苦手な筆者には勇気がいる食べ方です。とはいえ、こんなリッチな食べ方はありません。甘いものに抵抗がない方は、マラシュ・ドンドルマとバクラヴァの組み合わせをぜひご堪能いただければと思います。
アイス屋さんでのパフォーマンスも必見
屋台式のアイスクリーム屋さんでは、アイスの販売をするベンダーが派手なパフォーマンスをすることで知られています。アイスクリームを受け取ろうとしても、なかなか渡してくれません。渡されたかと思ったアイスクリームは手をすり抜けて空中へ。アイスに粘り気があるからこそのパフォーマンスです。
ただしこれ、初めての方はかなり戸惑われるかも。じらされた・からかわれたと感じて、本気で怒る人もいます。でもこれはトルコ人ならではの人を楽しませるパフォーマンス。トルコに来られたらぜひこのパフォーマンスも込みで、弾力のあるアイスの味を楽しんでくださればと思います。
マラシュ・ドンドルマに関わらず、トルコのアイスの独特のテクスチャーは世界で唯一無二のもの。暑い夏でも溶けにくいので、ゆっくり楽しんで味わうことができます。でもせっかくトルコに来られる機会があるならマラシュ・ドンドルマというトルコのオリジナルブランドの味もぜひご堪能いただきたいと思います。
著者プロフィール
- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
公式HP:https://picturesque-jordan.com