Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
海藻で家畜の「ゲップ」や「オナラ」由来の温室効果ガス削減、気候変動の救世主に!?
牛や羊などの反芻動物は、時間をかけて食物を消化する際にメタンガスを発生させ、それをゲップやオナラとして大気中に放出する。
メタンガスは、二酸化炭素と比べて25倍の温室効果があるとされ、気候変動対策において重視されているもののひとつだ。しかも、反芻動物が放出するメタンガスは、年間20億トンとも言われ、温室効果ガス全体の4%を占めるというから、放ってはおけない。(参照)
こうしたことから、肉食を止める/減らすべきだとする声もあるが、「環境に悪い畜産業」というレッテルをなんとかしたいと、世界各地の家畜農家と研究者は日々葛藤している。
ご存知の通り、「オージー・ビーフ」が重要な輸出品のひとつとなっているオーストラリアでは、本気で『牛のゲップやおならを減らす』ために、ユニークな取り組みを行ってきた。
この取り組みは、CSIRO(豪連邦科学産業研究機構)とジェームスクック大学が共同で行っている、『海藻を飼料に混ぜて与えることで、牛が放出するメタンガスを削減することができた』という研究結果に基づいたもの。2019年に世界各地のメディアでも取り上げられ、注目を集めた。(参照)
今年、この取り組みが、豪国内の優れた科学研究に贈られる「ユーレカ・サイエンス・アウォード」の環境研究部門で最終選考に残り、再び大きな脚光を浴びることとなった。
肥育場での概念実証は成功、今後の課題は?
2019年の時点では、わずか2週間という短期間の試験だったため、与え続けるとどうなるのか、削減効果が長期的に続くかどうかが不明だったのだが、牛のゲップやオナラ問題に真剣に取り組む研究者たちは、MLA(豪牛羊肉生産者団体)の協力の下、その後もコツコツとこの研究と試験を続けてきた。
牛に与えることで、ゲップやオナラに含まれるメタンガスを削減できたとされるのは、『アスパラゴプシス(和名:カギケノリ)』と呼ばれる赤紫色の海藻だ。
カギケノリ海藻サプリ入り飼料は、『フューチャーフィード(FutureFeed)』と呼ばれ、普通の飼料に数%ほどのわずかな量の乾燥カギケノリを混ぜたものだ。これをタスマニアの肥育場で乳牛に与え続けたところ、牛が生成するメタンのレベルを大幅に低下させ、心配されていた海藻食による牛の健康や搾乳への悪影響は見られなかったという。
また、羊毛生産者にも協力をしてもらい、羊にフューチャーフィードを与える初期試験でも、羊毛への悪影響は見られず、羊たちもいたって元気なため、対象となる頭数を増やすことになったそうだ。
このように、フューチャーフィードが、反芻動物の腸内からメタンを安全に除去できることを証明したことが高く評価され、今年度の「ユーレカ・サイエンス・アウォード」の最終選考に残ったのだ。
今回は、惜しくも受賞は逃したものの、今後は、狭い肥育場ではなく、広大な放牧農場での試験へと移り、本格的な家畜由来のメタンガス削減に取り組むという。さらなる課題は、フューチャーフィードを作るための『カギケノリ海藻』をいかにして多く収穫=養殖するか。(参照)
日本人にとっては食材としても馴染み深い「海藻」も、オーストラリアでは、数年前まで肥料などに利用する程度だったが、思いがけず『気候変動と闘う』主役に躍り出た。また、カギケノリを含む海藻類が二酸化炭素を吸収/固定することもわかっている。
「海藻」が地球を救う・・・そんな日が、近い将来、来るのかもしれない。〈了〉
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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