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Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア

平野美紀|オーストラリア

森林火災で被災したコアラを再び森へ。カンガルー島、復興の記録

被災を免れた森で暮らし始めたカンガルー島の野生のコアラ。(2021年3月 筆者撮影)

東京都とほぼ同じ面積が被災し、おびただしい数の野生のコアラが犠牲になった南オーストラリア州カンガルー島。

東京都の約2倍、オーストラリアで三番目に大きな島であり、『野生動物の楽園』として知られるこの島は、2019-2020年の森林火災で島の約半分に当たる46%が被災。島には、野生のコアラが5万頭ほどいたはずだが、生息地の約8割を失い、火災後の最終的な頭数は1万以下と推定されている。

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森林火災がわずか1日で一気に町まで燃え広がり、辺り一面が真っ赤に染まったカンガルー島。(2020年1月撮影/CFS Promotions Unit: Kangaroo Island fire from © Josh Hann)

昨年1月、火災がまだ完全に鎮火していないときに島を訪れる機会があった。その時、真っ黒に焼け焦げた森を目の当たりにして、完全に打ちのめされた... 。記憶の中にある『緑豊かな島』とのあまりのギャップに、絶望感でいっぱいになった。

それは、まさに悪夢そのものだった......

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2019-2020年の森林火災被災エリアを黄色でマッピングしたカンガルー島の地図。(南オーストラリア州政府環境保全省

あれから1年 ───

黒焦げになった森は今、どうなっているのだろうか?

多くの野生動物が犠牲になったが、なかには真っ黒に焼けた火災現場から救助されたものもいる。救助された動物たちはどうしているのだろうか?

気になって仕方がなかった私に、島の復興を見届けるチャンスがやってきた!

命を繋ぎとめたコアラを再び森へ

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治療を終えたコアラ。四肢に重度の火傷を負っていた。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

数万という多大な犠牲を出したカンガルー島のコアラ。カンガルー島森林火災の第一報を聞いた時には、その惨状に、胸が張り裂けそうになったのを覚えている。しばらくして、コアラやカンガルーなどの多くの野生動物たちが、消火活動に当たっていた消防士や市民らによる必死の救助活動によって、火災現場から助けだされていることが伝えられた。

火災発生時から、計約650頭のコアラが火災現場から救助されたというが、せっかく助けられても火傷が酷かったり、煙を吸い込んだせいで重度の肺炎を起こすなどして、死んでしまったり、やむを得ず安楽死となったものも多かった。そんななかでも、助かった動物たちが再び野生で暮らせるようになってほしいと、豪国内各地からボランティア獣医が駆けつけ、寝ずに治療し、地元の人たちが懸命の介護とリハビリを続けてきた。

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他州から駆け付けた獣医が、火傷を負ったコアラに治療を施す。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

「救助されたコアラの4割程度に当たる約250頭は、森へ帰すことができています」

そう話してくれたのは、島の中央部にある動物園「カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パーク」のオーナー、ダナ・ミッチェルさんだ。

ダナさん夫妻が切り盛りするこの動物園は、もともと交通事故などで傷ついた島の野生動物のレスキュー&リハビリ・センターを兼ねていたが、昨年の森林火災の際には、火災現場から被災した野生動物たちが続々と運び込まれた。その数、なんと800匹(頭)以上!

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カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークのオーナー、ダナ・ミッチェルさん。(2021年3月 筆者撮影)

史上最大の野生動物救出作戦

当時、カンガルー島の森林火災のあまりの深刻さに、オーストラリア政府は、支援活動に当たる予備役兵士約1,400人(※最終的な稼働人員数)を派遣。このうちの一部の部隊は、この動物園へ運び込まれる野生動物のために、敷地内に仮設病院や飼育施設を設置し、動物の世話に当たっていたほど、島の野生動物への被害は甚大だった。

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被災コアラのための病院や飼育施設を建設し、治療を終えたコアラをブースへ移す陸軍兵たち。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

2020年1月9日には、この動物園に火の手が迫り、避難指示が出され、この場所を捨てて避難するか、留まって火と闘うか、という究極の選択を迫られる事態となったことも...。しかし、ダナさん夫妻は、「動物たちを見捨てるわけにはいかない!」と、一部のスタッフ、兵士、消防士らと共に留まることを決断。動物たちを守った。

この動物園を拠点とした森林火災現場からの野生動物救助・介護活動には、海外からも多くの寄付が寄せられ、オーストラリア史上最大規模の野生動物支援活動だったのではないかと、ダナさんは言う。また、カンガルー島のコアラは、本土で蔓延しているコアラ・クラミジア感染がないため、種の保存という観点からも貴重な存在として、大学などのコアラ研究にも大きく貢献していると話してくれた。

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被災コアラに餌のユーカリを与える空軍兵。(2020年1月 カンガルー・アイランド・ワイルドライフ・パークにて。筆者撮影)

迫りくる火から守り抜き、手塩にかけて介護した動物たちを野生へ帰す瞬間は、「少し寂しいけれど、最高にうれしい」とダナさん。現在は、被災を免れた森林へリリースしているが、重度の火傷で爪がだめになってしまうなど、野生で暮らすことが困難な動物たちは、このまま、この動物園で一生を過ごすことになるという。

野生のコアラが多く生息していたのは、島内でも最も被害が深刻だった「フリンダース・チェイス国立公園」だが、火災がまだ収まりきらない1年前、公園内へと続く道は途中で通行止めになっていた。それでも、行けるところまで行って目にしたのは、愕然とするような焼野原の惨状だった...。今はどうなっているのだろうか・・・

次ページ:コアラの森、復活の兆しと新たな問題 >>

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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