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サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国より

古庄亨|ブラジル

日伯における高校生サッカー年代の海外留学生制度

◉日本人高校生がブラジルでプレーする場合

一方、日本人高校生がブラジルでプレーする場合はどうなるのだろうか。

実力次第だろうという身も蓋もない意見もあるだろうが、実力はあると仮定して他の部分で何が必要かを挙げてみよう。

まず、日本と違ってブラジルの学校には部活がないと考えて頂きたい(インター校、私立校は学校による)。

部活があって学校対抗の大会もあるにはあるのだが、それほどレベルは高くもなく公式ではない。

基本的には何かスポーツをプレーする場合は、地元の地域クラブかスポーツの強い総合クラブで日々の活動を行う。

サッカーを本気でプレーする場合、またプロを目指す場合は、クラブチームに所属する事が必須となる。

そしてクラブが参加している各州選手権に出場するのだ。

ではチームと契約し州選手権に出場するには何が必要なのだろうか。

18歳以上は成人扱いなので若干手続きが異なるが、17歳以下の場合は下記の様な項目をクリアしていく必要がある。

(個人対応)

・チームとの契約

・ブラジルでの身元引受人の認定

・スポーツビザ(特例/学生ビザ)等の取得

・領事館等への諸登録

実力があればチームには認められて自分の居場所ができる可能性はある。

語弊があるがビザがなくてもチームでの練習や練習試合、非公式な大会には出場する事ができる。(決して不法滞在でという意味ではない)

観光ビザで入国し、一定期間チームに帯同し活動するだけでも良い経験にはなるだろう。

しかし、真剣勝負の場である州選手権の様なオフィシャルな組織が行う公式戦には出場する事は出来ない。

プロを目指してブラジルに来る高校生はほぼ全員が公式戦への参加を望んでいるだろう。

しかし、公式戦でプレーする為には、ピッチ外でクリアしなければならない項目も多い。

その部分をクリアできずに期限切れを迎えブラジルを後にした日本人選手達も沢山いる。

特にブラジルは未成年を守る為の法律が年々厳しくなってきていると感じている。

日本で暮らす選手の両親からの現地身元引受人への委任状から、州警察への登録、法務省への登録、日本国総領事館での諸登録などがある。

ブラジルの場合は州によって対応が違う為、委任状で済む場合もあれば本人、更には両親を連れてこいと言われてしまう場合もある。

ポルトガル語が分からない高校生が一人で現地でこれらを行う事は中々ハードルが高い。

筆者は現在、ある高校生の身元引受人を行っているが、ビザ取得の為に色々な関係機関を回っている。

それでもやはり一人では無理なので、こちらの弁護士に相談をしながらである。

加えて、コロナ禍で州警察や労働省、法務省などの公的期間が開いたり閉まったりするので、先の予定が全く立たない。

話がそれるが、筆者自身の自動車免許取得も公的機関の閉鎖で既に1年以上止まっている。

限られた期間の中で、結果が求めれる若い選手(高校生)達からすると、何とも歯痒い状況ではある。

これら個人でクリアすべき項目に加えて、労働省や法務省からのチーム側の審査も重要になってくる。

自分も審査されるが、受け入れるチームも審査されるのだ。

(チーム対応)

・選手の住居

・選手を受け入れる学校の選定

・クラブの組織体制の審査

・クラブの財務状況の提出

ビザ取得申請の審査にあたっては、受け入れクラブの組織や経営状態も厳しく見られる。

毎月の財務書類が不足していたりする場合、それだけでビザが承認されない事もある。

クラブにとっても中々ハードルが高いのである。

ビッグクラブならまだしも、地方の中堅以下のクラブなどは、どこも財務的に厳しかったり組織的に出来上がっていなかったりするのが普通である。

施設的にも、選手寮の質、収容人数や広さ、防犯、防災面での規定もあり、条件を全て満たす事ができるクラブはそう多くないだろう。

ブラジルへのサッカー留学する若い世代が減ったのは、こういった法律改変も大きな要素であろう。

90年代はサッカービザなるものがあり、1年毎の更新ができていたとは聞いている。(今は廃止されている。)

また、抜け道としてどこかの語学学校に入学し、学生ビザが下りた場合は、2年間の滞在が可能であった。

但し、この方法もコロナ禍で事情が変わってきている。

ロックダウンに伴い、授業がオンライン化している影響で労働局がビザ承認を行わないのである。

一時期、アメリカのトランプ元大統領が就任機関中にアメリカの大学への海外留学生の受け入れを禁止した事があった。

オンラインで授業が受けれるのだから、わざわざアメリカに来る必要が無いという見解である。

ブラジルもまさにその通りの見解となり、語学学校への学生ビザも現在は停止されている。

学校と部活が紐付いている日本のスタイルの場合、ある程度の項目は、学校側が受け皿となって事前にクリアしているのであろう。

事実、ブラジルの場合も大学や学校という枠組みでは交換留学生などの制度が存在している。

ただ残念ながら部活という存在がない為、教育の場とスポーツの場が紐付いていない。

サッカー界には、交換留学で外国人選手同士の交流、それによる心の成長などの考え方が入る隙はないのだ。

毎年の様にセレクションがあり、良いプレーをしなければいつまでクラブに所属できるかも分からない。

教育というよりは既に労働に近い世界である。

日本とブラジルが違いというよりは、学校に紐付いた部活(スポーツの場)という日本の制度の方が、国際的にはマイノリティなのであろう。

FIFA側も日本の部活制度は認識しているが、世界全体で考えた際に、各国の特殊事情を考慮する事はできないとの見解を発表している。

ブラジルは治安の問題をよく言われてしまうが、全ての地域が危ない訳でもなく、時間と場所とタイミングを間違えなければよっぽどの事はない。

全てが揃っていて、施設の中から一歩も出る必要のないクラブもある。

サッカーをプレーするレベルや環境も問題はない。

ビザ取得の問題さえ上手く解決すれば、日本の選手達にとっては自身の成長・挑戦するには持ってこいの国である。(前述の項目をクリアして、実際に正式に契約できた選手もいるので、全く無理な訳ではない。)

今後も色んな可能性を探りながら、未来のサッカー選手達の後押しを行っていきたい。

日本のサッカー界の為にできる事はないか、地球の反対側から日々考えている。

<了>

 

Profile

著者プロフィール
古庄亨

ブラジル・サンパウロ在住。日本・ブラジル・タイの3ヶ国で、2010年までフットサル選手としてプレー。2011年より5年間、都内スポーツマネージメント会社勤務。2016年ブラジルに渡り翌年現地にて起業。サッカーを中心にスポーツ・教育関連事業で活動中。

Webサイト: アレグリアスポーツアカデミー・サンパウロ

Twitter: @toru_furusho

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