コラム

ネット企業の利益のために注意散漫にされてしまった現代人、ではどうすればいいのか?

2022年03月08日(火)16時00分

作者の文章が皮肉なことに注意散漫なので興味深い事が多く書かれているにも関わらず要点が心に残りにくい。彼はまとめの部分で大きく3つのことを提唱する。それらは、「監視資本主義を止める」「週4日勤務制にする」「子どもが自由に遊ぶことができる子ども時代を再生する」だ。

監視資本主義についての提唱は、先に述べたインターネット依存症に対するものだ。次の2つは、「自分が楽しめる活動をする」ことで心を自由に泳がせ、その結果集中力を得るという、インターネット前の時代に私たちが普通にやっていたことを取り戻すというものだ。「子どもが自分たちだけで外で自由に遊ぶことが許されない」という法律は日本とは異なるが、日本では別の意味でそういった「子ども時代」が欠乏しているかもしれない。

私はありがたいことにHariほどインターネット依存症ではない。集中力があるわけではない。幼い頃から白昼夢の癖があって注意散漫になりがちで、現在は加齢がそれに拍車をかけている。とはいえ、Hariとは異なり、旅行中や食事中は基本的にスマートフォンを使わない。努力しているのではなく、使う気になれない。どちらかというと、会話や食事の途中で相手がスマートフォンを見るとムッとするタイプだ。

この本を読みながら、同業とも言える作者と私に依存の差(注意散漫の差)が生まれた理由を考えてみた。思いついたのは次のような私の行動だ。

自分を守るための努力

1) 2009年1月に始めたTwitterで初期に「これは依存症になる可能性があるメディアだ」と気づいて自ら制限する努力をした(Twitter初期である2010年刊行の『ゆるく、自由に、そして有意義に ストレスフリー・ツイッター術』でもそれについて触れた)。

2) Eメールのチェック、ソーシャルメディアのチェックを集中的にする時間帯を作る。私にとっては午前4時前に起床してからがこの時間。日本に住んでいる人と仕事でやり取りをするのにも適している時間帯。その後にチェックするのは、仕事の合間のコーヒーブレイクの時のみ。

3) 仕事でよく使うために緊急性があるFacebookのメッセンジャー以外は、Eメールを含めて通知はオフにしている。

4) Eメールやソーシャルメディアでの返事は基本的にノートブックパソコンでする。その癖がつくと、スマートフォンで返事をするのは時間がかかって面倒になるのでチェックもしなくなる。

5) 自宅でも旅行中でも、なるべく自然の中で毎日ジョギングかウォーキングをする。その最中にはソーシャルメディアもメールもしない。その瞬間を楽しむ。

私も「自己啓発本的なアプローチでは解決しない」というHariの意見には同感だ。ネット依存症はオピオイド依存症のように企業が自分たちの利益のために人々を犠牲にするように故意に作られたものだから。しかし、道義心で彼らが変わることはありえないし、規制も簡単には実現しないだろう。ゆえに、個人がそれぞれに自分を守るための努力をするのも必要だと思っている。

私たちの生活が壊れても、企業は救ってくれないのだから。


プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB議長、暗号資産の規制を支持 包括的な枠組み「

ビジネス

FRB議長、トランプ氏の利下げ要求にコメントせず 

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、次回利下げは6月との観測 声明文言の変更受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    女性が愛おしげになでていたのは「白い犬」ではなく.…
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    AI相場に突風、中国「ディープシーク」の実力は?...…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 6
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story