コラム

安倍元首相の国葬は感動的で成功──だからこそ危険な「歴史修正」だった

2022年10月13日(木)17時20分
西村カリン
安倍元首相国葬反対デモ

YUSUKE HARADAーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<歴史に残るのは奇麗で元首相の良い部分を強調した映像となる。過半数が反対したことや安倍政権の暗い部分がどう残るか考えることが今後は重要だ>

安倍晋三元首相の国葬は、直前にはあらゆる世論調査で過半数が「反対」だった。にもかかわらず、閣議決定に基づいて9月27日に実施された。ラジオ・フランスの特派員として、私も取材のため日本武道館へ行った。開始時刻である午後2時の3時間前にマスコミ専用バスで向かったが、到着したときには、会場はまだ準備中だった。私はラジオのニュースのための録音や編集をしながら、次々と来場する参列者を見ていた。

一番初めに来たのは「地方団体」の人々。開始直前に外国からの参列者が来場した。プライベートな葬儀は7月12日に済んでいるので、ひつぎではなく遺骨が会場に運ばれた。外国人参列者の感想を聞くことができなかったので彼らがどう思ったかは分からないが、私は個人的に文化の違いもあって、遺骨を弔う葬儀には違和感を覚えた。

安倍元首相の実績を紹介する動画、岸田文雄首相の弔辞や友人代表・菅義偉前首相の弔辞も特筆すべきところはなく、故人の「良い」面だけを語る映像と言葉だった。

比較的短い時間で、予定どおり済んだので、外国人参列者からは日本らしくていいと評価されただろう。その点、岸田首相をはじめ、日本政府は「国葬をやってよかった」と思うはずだ。いわゆる「弔問外交」も彼らからすると成功した。

でも、フランスのニコラ・サルコジ元大統領と岸田首相との会談は無意味だったと思う。サルコジに政治的役割は全くなく、エマニュエル・マクロン大統領との関係が良いから派遣されただけ。フランスで昨年、汚職などで複数の有罪判決を受けたサルコジはマスコミに会うことも避けた。

「式」としては感動的なところもあって成功

冷静に考えれば、「国葬」ではなく「お別れ会」や「追悼式」だったら、国民もこれほど反対しなかった可能性が高い。国葬だったことで、危険な事例になったと私は思う。事前の反対運動は別にして、感動的なところもあって、「式」としては割と成功したからこそ危険だ。

日本のテレビ局が放送した奇麗な映像は歴史に残る。式の様子は海外でも報道され、安倍元首相のイメージにマイナスにはならなかった。

日本の国葬反対派の意見は、必ずしも海外で納得されたわけではない。例えば日本にいる一部の外国人記者は、多くの人が参加したデモが何度も行われたことを批判した。「あのような銃撃で亡くなった政治家をきちんと追悼すべき」といった考え方もある。いくらスキャンダルや疑惑があったとしても、安倍元首相は「日本にとって重要な役割を果たした政治家」という評価のほうが世界では残る。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story