日本人が見過ごす「博物館」という財産を見直し、苦しむ地方の施設を救おう
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<日本には約5700の博物館があるが、地方には経営が苦しい施設も多い。人生を豊かにしてくれる文化施設の価値を、いまいちど見直すべきだ>
初めて博物館を訪れたのは18歳くらいの時。ニューヨークの通称「ザ・メット(The Met)」だった。すごい行列があったこと、入館して5分後に「シーッ(静かに)」と博物館員に言われたことが印象に残っている。注意されてしまったのは、銅像を見てスケッチをしている画学生らしき人がいたからだ。
ザ・メットは日本語では「メトロポリタン美術館」。博物館ではなく美術館。英語では「The Metropolitan Museum of Art」と言い、博物館も美術館も同じmuseumだ。岡崎市美術博物館や豊橋市美術博物館でも分かるように、実は美術館=美術博物館で、日本でも博物館の範疇にしっかりと入る。
では、博物館とはそもそも何なのか。最近その意義が問われ始めている。ちょっと長いが、現在の定義は以下のとおり。
「博物館とは、社会とその発展に貢献するため、有形、無形の人類の遺産とその環境を、研究、教育、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する公衆に開かれた非営利の常設機関である」
これは時代遅れではないか、という声が一部の専門家から上がっている。定義を管理する国際博物館会議(ICOM)が2019年に調査すると、「倫理的、社会的、環境的、政治的な課題についてもっと情報を提供すべき」といった主張が寄せられた。
日本は「博物館大国」と言われるが......
そこでICOMは、社会的な関わりを重視した新定義案を同年、京都の国際会議で発表。賛成する声もあったが、「定義というより理念」や「イデオロギー色が強すぎる」という批判も出て、結局、新定義案は採択の投票が延期となってしまった。
博物館は多くの言語で「ミュージアム」だが、これは古代ギリシャの学堂である「ムセイオン」にちなむ。ムセイオンと言えば、芸術や学問をつかさどる9人の女神ミューズ(ムーサ)を祭る神殿だ。ICOMは今年8月にプラハの会議で再び博物館の新定義について討論する予定だが、個人的には原点に戻って「ミューズ」を意識して論じてほしい。
日本には博物館が約5700もあり、「博物館大国」といわれる。特に国立新美術館(写真)、東京国立博物館、国立西洋美術館は人気が高い。でもこれらはみんな東京にある。地方ではここ数年、入場者数の減少によって経営が苦しい施設が目立っている。これらをどう守るか。
一つには、ICOMで提案されている新定義に合わせるという方法がある。つまり人々と社会的に関わる展示をする。例えば北九州市環境ミュージアムは、賞味期限内に消費できない食品を集めているなど、注目に値する。筆者もいつか行ってみたい。