コラム

ベルリンの中心市街地で自家用車の利用が禁止されるかもしれない

2022年01月27日(木)14時30分

ドイツの伝統であるエコロジー運動

オートフライの提唱チームは、何十年にもわたって支持基盤を拡大してきた環境保護グループの連合体を構築することで、大きな前進を遂げた。その中には20世紀初頭、ドイツとスイスを中心に、工業化社会の到来により自然や人間性が阻害されたことへの反旗となった「生活改善」運動の再評価や、冷戦時代から続くハイキングクラブや森林クラブ、1970年代に西ドイツで始まった省エネハウスの世界基準となったパッシブハウス構想、自転車愛好家、鉄道ファン、旧東ドイツの末期にプレンツラウアー・ベルク教会の環境図書館で開催されたÖkoseminar(エコセミナー)の高齢の元参加者などが含まれている。

このエコロジー運動の流れは、2021年に緑の党の首相候補となったアナレーナ・ベアボックの台頭で決定的になった。ベアボックは当初、世論調査で急上昇したが、スキャンダルの暴露や外国からの干渉が重なり、9月の連邦選挙では緑の党は3位となり、彼女は首相候補から外れた。ベアボックは、社会民主党、緑の党、自由民主党の連立政権に加わり、外務大臣に就任した。今後、欧州の環境保護政策と外交にベアボックの手腕が問われている。

各国の取り組み

オートフライは、世界で初めてのカーフリー運動ではない。ロンドン市のように、パンデミックの中で盛り上がった取り組みも多くあるが、そうではない活動もある。

例えばマドリード市民は、市の中心部で車の規制を実施しようとしたが、この計画はすぐに政治的なフットボールになってしまった。2018年に車の規制が実施されたが、2019年に新たに選出された保守派の市政府によって撤回された。市政府はすぐに、歩行者のインフラを壊すことに対して住民が反発し、むしろ車の禁止を望んでいることに気付いた。その結果、マドリードの規制は復活したが、5月にスペインの最高裁判所によって取り消されてしまった。

ヨーロッパの他の都市は、歩行者対策に成功しており、ライバルたちにインスピレーションを与えている。オランダのフローニンゲンでは、約23万人の人口のうち、車よりも自転車に乗る時間の方が長く、欧州環境庁のランキングによると、オランダの都市の中で最も空気がきれいだという。

グローニンゲンの取り組みは、1970年代半ばに始まった。若い都市改革者、マックス・ファン・デン・バーグが、当時流行していた、建物を壊して都市に高速道路を建設するというデザイントレンドを覆すという、貴重な白紙委任状を手にしたのだ。しかし、ファン・デン・バーグは逆のアプローチをとった。それは、都市を四つの象限に分割し、その四つの象限を行き来するために、地元以外のすべての交通を環状道路で迂回させ、中心部を移動する最も魅力的な方法を自転車にしたのだった。

これまでヨーロッパで行われてきた反自動車キャンペーンの成功例は非常に限られていたが、ベルリンのオートフライは違うかもしれない。このキャンペーンは、ドイツの憲法で定められている特別な直接民主主義を利用しているからだ。最近では、ベルリンの大家から数千戸の住宅を収用し、家賃の値上げを抑止するという画期的な投票が行われた。

住民投票は、3つの段階に分かれており、第1段階では、指定された期間内に、提案された計画に賛成する2万人の市民の署名を集めなければならない。第2段階では、17万人の署名を集める必要がある。この2つの段階を経て、政府が法律の施行を拒否した場合、その問題は住民投票にかけられる。

第1段階で50,333人の署名を集めたことで、オートフライの活動家たちは自信を持っている。この提案の行方に今、世界が注目している。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感3月確報、53.3に低下 

ワールド

スペースX上場巡り話題沸騰、銘柄コードが賭け対象に

ビジネス

ECBの拙速利上げに慎重、インフレ定着の見極めを=

ワールド

米国務長官、地上部隊使わず対イラン目標達成へ 「数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 5
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 6
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 9
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 10
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story