コラム

ベルリンの中心市街地で自家用車の利用が禁止されるかもしれない

2022年01月27日(木)14時30分

自家用車禁止後のブランデンブルグ門への道路予想図。自動車道路の半分は自転車や歩行者用に配置される。 Initiative Volksentscheid Berlin autofrei / CC by-sa 4.0

<世界で最も自動車保有率の高い国のひとつドイツ。そのベルリンの中心市街地で自家用車の使用が実質的に禁止となるかもしれない......>

自動車大国のジレンマ

ベルリンの活動家グループVolksentscheid Berlin Autofrei(自動車のないベルリンを目指す人々の決断)は、ベルリンの中心市街地から自家用車を禁止するという野心的な計画を推進している。このグループは略して「Autofrei(オートフライ)」と呼ばれ、約150人の活発なメンバーがいる。

彼らはベルリンの都心部を周回する環状線内(Sバーン)で、車を制限する計画を提案している。緊急車両、ごみ収集車、タクシー、配達車両、および移動が困難な居住者の車両を除き、ベルリン中心部での自家用車の使用を禁止することを主な目的としている。それは、「ベルリンの公道が公平に配分され、健康的で、安全で、住みやすく、気候と環境にやさしい都市を保証すること」である。

欧州連合最大の経済大国であるドイツは、良くも悪くも自動車との長い歴史を持っている。ドイツを訪れる外国人観光客の多くは、速度制限のないアウトバーンでの移動を望んでいるし、ドイツ人の間でも自動車文化への愛着は根強いものがある。メルセデス、ポルシェ、アウディ、BMWの本拠地であるドイツは、1937年に当時のアドルフ・ヒトラーが初めて導入した、一般的なドイツ人にとっての「国民車」であるフォルクスワーゲンの発祥の地でもある。

現在、ドイツは世界で最も自動車保有率の高い国のひとつだ。人口1,000人当たりの自動車保有台数は574台。そのドイツで、気候変動対策を目的としたベルリンの市民団体が、2021年末に市中心部の55平方マイルのエリアで自家用車の使用を実質的に禁止する計画を提唱した。このアイデアを支持した5万人以上の住民の署名がベルリン議会に提出されたことで、一気に世界が注目することになった。

takemura20220127_5.jpg

2021年にベルリン市に5万人の署名が提出された時の様子。Initiative Volksentscheid Berlin autofrei / CC by-sa 4.0


なぜ市内の自家用車を排除するのか?

ベルリンの中心市街地は、都市人口の多くを包み込んでおり、環状鉄道「Sバーン」の内側に位置している。23マイル(約37キロ)の環状線はベルリンの複数の地区を通過し、その内側にはマンハッタン島の2倍以上の広さがある都市環境が広がっている。

takemura20220127_2.jpg

自家用車乗り入れが禁止されるSバーン環状線内の中心市街地。NYのマンハッタン島の2倍の面積である。(c) S Barn Berlin

そのため、環状線内での自家用車の利用を禁止するという市民団体の動きは、世界で最も積極的な気候変動対策のひとつとして注目されている。

燃焼エンジン車から電気自動車への移行が、環境問題、とりわけCO2排出問題の解決につながるという考えを、オートフライは否定する。ディーゼル車、ガソリン車、電気自動車のいずれであるかは関係ない。市内の自動車交通は、代替のドライブシステムでは解決できない多くの問題を引き起こしているからだ。

環境保護の主役と目されている電気自動車も、従来の自動車に過ぎないと彼らは指摘する。電気自動車の生産は、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マンガン、銅、リチウム、グラファイトなどの貴重な原材料に大量に依存している。これらのリソースの活用は、地球環境保護に問題を生み出し、電気自動車の廃棄には、ガソリン車以上の環境破壊が待ち受けているとオートフライは指摘する。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story