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ドイツ哲学界のスター:ビョンチョル・ハンの「疲労社会」を考える
ドイツ哲学の旗手となったビョンチョル・ハン © Byung-Chul Han, via Facebook
<今、世界の注目を集める韓国生まれのドイツの哲学者、ビョンチョル・ハン(Byung-Chul Han)は、『疲労社会』の中で、ハッスルカルチャーを、新自由主義が植え付けた「達成主義」にもとづく心理的統制であると指摘し続けている>
ハッスルカルチャーの弊害
日本ではたびたび「過労死」が問題となってきた。欧州のテレビ局では、日本の過労死問題の特集番組が何度も放送されている。ベルリンで日本の過労死を扱った独仏共同制作のTVドキュメンタリーを観た時、これは日本だけの出来事ではなかった。仕事を最優先し、全力で仕事に取り組むというトレンドは、今や世界中に浸透している。
「ハッスルカルチャー」と呼ばれるライフスタイルは、過剰に働くことが、他人から尊敬され、自分自身を成長させる最善の方法だと教える。もし1日のうちで、可能な限り生産的なことに時間を費やしていないなら、成功するための条件を失うことになる。ハッスル(Hustle)とは、英語で「ゴリ押し」や「強引な金儲け」などを意味し、日本での「頑張り」や「張り切る」といった意味とはかなり異なっている。
ハッスルカルチャーの強迫観念については、すでに多くの医療関係者や研究者などが指摘しているように、努力は必要だが、自分の時間がなくなるまで仕事をするのは危険である。常にハッスルしていると燃え尽き症候群になる可能性があり、健康に悪影響を及ぼすからだ。
過労とメンタルヘルス
過労とメンタルヘルスの直接的な関連性はまだ確立されていない。しかし、過労は生体リズムの乱れにつながり、睡眠不足、うつ病、II型糖尿病、肥満、高血圧、脳心血管系合併症の発症などに影響を及ぼす可能性がある。最近、日本でも報告されているように、自殺のリスクも排除すべきではない。
燃え尽き症候群は確かな病気だ。世界保健機関(WHO)は、燃え尽き症候群を「職場での慢性的なストレスがうまく管理されていないために生じる症候群」と定義している。
ビョンチョル・ハンがナレーションを担当し、出演したエッセイ・ドキュメンタリー映画。ハンは現代の現象である「燃え尽き症候群」について語り、達成志向のデジタル社会の根底にあるテーマを明らかにしている。イザベラ・グレッサー監督作品(2015年)
哲学者ビョンチョル・ハンの観点
今、世界の注目を集める韓国生まれのドイツの哲学者、ビョンチョル・ハン(Byung-Chul Han)は、20カ国以上で翻訳出版されている主著『疲労社会(Müdigkeitsgesellschaft)』(2010)や一連の著作の中で、ハッスルカルチャーを、新自由主義が植え付けた「達成主義」にもとづく心理的統制であると指摘し続けている。2021年10月には、日本でもハン氏の主著である『疲労社会」と『透明社会』が相次いで翻訳出版されるという。ハン哲学の日本での受容に期待したい。
1959年にソウルで生まれたハン氏は、ドイツで哲学、文学、神学を学び、現在はベルリン芸術大学(UdK)で哲学と文化理論を教えている。ドイツのみならず世界が注目することとなった彼の言説は、「透明性」を強力に推進する社会とハイパー消費主義、過剰な情報処理や過労にさえポジティブに取り組む人々の蔓延が、社会を疲弊させる要因であると指摘した。彼の著作や論考を参照しながらハン氏の思考を紹介してみよう。
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