コラム

個人が直接収益化する「クリエイター経済」が、世界の経済・社会を変えつつある

2021年06月24日(木)18時15分

分散化と個の経済

インターネットはメディアを分散させてきた。私たちはさまざまなタイプのコンテンツを見つけたが、それらはもはや伝統的な大手メディア企業が所有するものではない。その多くは、一般の人々が書いたり、撮影したりしたものだ。それに加えて、新しい支払い方法や収入を得る方法が開発され、すべてのプロセスがより管理しやすく、実行可能なものになっている。

2020年、COVID-19のパンデミックにより、このプロセスは頓挫するかと思われたが、むしろ強化されてきた。ロックダウンと失業率の悪化が相まって、クリエイターは新たな収入源を求め、同時に人々はコンテンツを探す時間が増え、余暇時間を埋める方法を模索してきたのだ。

5541989722_n.jpg

ドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)は、創造性の哲学とその根本的なアプローチで知られ、創造性の原則に気づき、それを人生そのものの一般原則にすることを提案した。ボイスの基本的な考えは、彼の最も引用された声明に反映され、「すべての人間は芸術家である」というもの。写真はボイスの「創造性=資本」(リトグラフ、1983)。創造性=資本とは、創造的活動を維持する能力であり、資本は単に経済的価値ではない。


クリエイター経済は、情熱(パッション)経済の一種である。というのも、クリエイターとは、自分が情熱を持ってやっていることで収入を得られるようになった人たちのことだからだ。今では、多くのクリエイターたちが、安定した収入を得るために、自分の趣味を生かす方法を見つけている。好きなことを仕事にして生活できるのなら、最低賃金の仕事に従事する必要はないのだ。

クリエイターによる個の経済活動の急増は、かつてドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスが述べた「誰もがアーティスト」という格言どおり、巨大な社会・経済変革への第一歩なのかもしれない。


プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 値幅1

ビジネス

米当局が欠陥調査、テスラ「モデル3」の緊急ドアロッ

ワールド

米東部4州の知事、洋上風力発電事業停止の撤回求める

ワールド

24年の羽田衝突事故、運輸安全委が異例の2回目経過
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story