コラム

音声SNS「クラブハウス」を告発、ドイツ消費者保護法違反で

2021年02月19日(金)17時00分

FOMO効果とエリート主義

クラブハウスの人気の理由の1つは、イーロン・マスクや多彩な著名人の会話が聞けることだ。しかし、もうひとつの要因は、アプリ・コミュニティに参加するための招待制である。マーケターや広告主に人気のある「作られた希少性」がこのアプリの特徴となっている。

クラブハウスは、ユーザーのFOMO(fear of missing out:取り残されることへの恐れ)に作用する。多くの著名人や投資家、起業家がこのアプリを使用しているため、革新的な出来事を見逃すことを人々は恐れ、それをメディアの誇大宣伝が後押しする。

パンデミック中に標準となったZoom会議にも飽きた後、カメラの前に座る必要のない音声チャットは新鮮なツールとなった。他のソーシャルメディアと比較して、招待制のアプリは、政治家や著名なメディア関係者に歓迎されている。これが、クラブハウスをエリート主義者と呼ぶ理由でもある。

リスナーは手を挙げて部屋の会話に参加することができるが、発話者の選択はホストに決定権がある。人気のあるトピックや有名人のホストとのディスカッションには数百または数千人が参加しているが、ディスカッションに文字でチャットしたり、「いいね」したり、コメントしたりする機能はない。

ドイツ消費者保護法違反

ドイツのいかなる電子商取引では、テレメディア法(Telemediengesetz、TMG)に基づいて「法的通知(インプリント)」を発行する義務がある。これは、何よりもまず消費者を保護するための通知である。ユーザーにサービス・プロバイダーについての詳細を知らせることは不可欠だ。この情報がなければ、プロバイダーの信頼性や、契約上の違法行為の申し立てや、データ保護法に基づくユーザーの権利も確認できないからだ。

クラブハウスはドイツ市場でサービスを展開している。しかし、同社の利用規約とプライバシーに関する通知は英語のみである。これはドイツおよびEUの消費者保護法に違反している。

2016年、ドイツ消費者組織連盟がWhatsAppに対して提起した訴訟で、ベルリンの控訴裁判所は、ドイツのユーザーに英語での契約条件を示すだけの会社は、「不透明な方法で行動しているため、すべての消費者に不利益をもたらす。英語での利用規約は、ドイツ語を話すユーザーには適用されない」という判決を下している。

データ保護法の重大な違反

クラブハウスの利用規約を調べると、欧州連合(EU)のGDPRとドイツのテレメディア法が必要とする適切なデータ保護通知がないことがわかる。さらに重大な問題は、このアプリを使用するには、ユーザーが自分の家族、友人、知人、仕事の関係者など、スマホに登録されている名簿をクラブハウスにアップロードする必要があることだ。

これは、クラブハウスが取得した連絡先情報が、広告目的で使用されてしまうことや、クラブハウスの非利用者のプライバシーまでを収集する「シャドウ・プロファイル」が作られるという問題である。

ドイツおよびEU裁判所は、ソーシャルメディア・プラットフォームが、ユーザーに名簿のアップロードを要求することをすでに数年前に禁止している。これは、消費者保護規則の違反と見なされるためだ。また、2016年にドイツ連邦最高裁判所は、フェイスブックのFriendFinderツールが違法であるとするドイツ消費者組織連盟からの勧告を支持している。

告発の行方

クラブハウスの運営会社が、懸念される商慣行をやめることを約束せず、特に罰則条項付きの排除措置宣言を受け入れない場合、ドイツ消費者組織連盟はそれに対して法的措置を取ることになる。さらに、重大なデータ保護違反は、企業が消費者保護グループからの訴訟だけでなく、EUのGDPRに基づくデータ保護当局からの厳しい制裁を意味している。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

衆院選、自民単独で300議席超 維新と合わせ3分の

ワールド

選挙終盤に響いたママの一言、「戦争の足音」感じた有

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏と11日会談 イラン巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 7
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 8
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story