コラム

欧州連合がGAFAを厳格に規制する法案を発表──世界のデジタル経済の行方を左右する

2020年12月22日(火)16時10分

グーグルとファイスブックの反応

法案の発表を受けて、米インターネット大手グーグルは、特定の企業をターゲットにしていると法案を批判した。「我々は、今後数日間にわたって欧州委員会が提案した内容を慎重に検討していく。しかし、我々は彼らが特定の一握りの企業をターゲットにしていることを懸念している」と、グーグルで政府関連および公共政策担当副社長を務めるカラン・バティアは述べた。

しかし、フェイスブックの対応は、以外にもグーグルとは異なっていた。法案が 「正しい軌道に乗っている」と声明を出し、より和解的な態度のように見えた。「我々はまた、技術革新を促進するのに役立つルールをサポートしている。競争を可能にし、消費者を保護し、これらのルールが私たちに適用されなければならないことを認識している」と、フェイスブックの広報担当者は言った。

takemura1222_4.jpg

2020年2月17日、GDPRや「価値と透明性」を担当する欧州委員会の副委員長であるベラ・ヨウロバーは、フェイスブックのCEOであるマーク・ザッカーバーグの欧州委員会訪問を出迎えた。©European Union, 2020. Photo by Xavier Lejeune

ビッグテックに取り組む規制当局

欧米の規制当局は、テック系大手企業のビジネスやユーザーのデータ・プライバシーの取り扱いに対する懸念を強めており、特に潜在的なライバルを排除するために他社を買収する企業が増えていることを懸念している。

その代表例としては、フェイスブックによるメッセージングサービスWhatsAppやソーシャルメディア大手Instagramの買収が挙げられる。グーグルによるYouTubeとGPSナビゲーターのWazeの買収に関しても、規制当局は警鐘を鳴らしてきた。

2020年12月9日、米連邦取引委員会(FTC)と48州が、フェイスブックを相手取り、独占禁止法違反の訴訟を起こした。FTCはまた、フェイスブックが買収したInstagramとWhatsAppの売却を強制する別の訴訟も起こしている。さらにSNSは、現状ではフェイクニュースやヘイトスピーチに対する責任が希薄であるとし、プラットフォーマーをこれまで保護してきた通信品位法の改正も議論されている。

一方、EUの新規制に反対する企業は、より多くの規制は、国の雇用を犠牲にし、EUユーザーのサイトへのアクセスがブロックされる可能性があり、インターネット大手がヨーロッパから離れてしまう可能性があると警告する。

ベルリンの政治家たちは、2018年に施行されたGDPR(一般データ保護規則)の成立を後押ししたことで知られる。しかし、ドイツ経済省のデジタルサービス部門の責任者であるアーミン・ユングブルスは、新しいルールがヨーロッパの中小企業、特にアプリ開発企業を犠牲にして施行されるべきではないと考えている。彼らの多くは、サービスを提供するために大きなプラットフォームに依存しているからだ。

「特にヨーロッパでは、アプリ開発者などの中小企業は、過度の義務や管理上の負担にさらされるべきではない」とユングブルスは述べる。ベルリンでは、この強力な法案がもたらす波及力が、中小企業やスタートアップの減速につながるとの指摘もある。

法律の制定はいつになるのか?

欧州委員会が法案を提示したことで、次はEU議会や加盟国で審議されることになる。EU加盟国は、草案について話し合い、独自の立場を明確にし、変更を提案することができる。法案の規模と多岐にわたる関連性のため、法案の成立には多くの時間がかかるだろう。規則が2022年以前に施行されることは不可能である。

デジタルサービス法とデジタルマーケット法の準備が整うまでには、2024年までかかることも考えられる。当然、GAFAからの反発も予測され、EU議会は強烈なロビー活動の舞台となるだろう。EU法の新時代を確立することになる新しい規則と、世界のデジタル経済の行方を左右する議論は始まったばかりである。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story