コラム

ファスト・ファッションの終焉? ヨーロッパの真の変化への積極的な取り組み

2020年07月21日(火)14時50分

サプライチェーンの透明性

ベルリンを拠点とするヨーロッパ最大のオンライン・ファッション小売業者であるZalando(ザランドゥ)は、2023年以降、プラットフォーム上のすべてのブランドの出店に、持続可能性が第一の要件となると発表した。現在、2,000のファッション・ブランドがザランドゥを通じて商品を販売している。いずれも期限までにサプライチェーン情報を提出しなければならず、同社が定めた要件を満たさない場合、改善を約束するか、サイトでの販売を全面的に停止しなければならない。

この決定の背景には問題が山積していた。安価な製造、消費者の頻繁な購入サイクル、寿命の短い衣料品は、毎年業界が生み出す9,200万トンの廃棄物の原因となっている。しかし、地球を脅かしているのは廃棄物だけではなく、私たちの衣服の製造方法も膨大な水と多くの有害な化学物質を使用し、17億トン以上のCO2を排出している。

過去20年間で、ファッション・ブランドが生産する衣料品の量は2倍になった。低価格と動きの速いトレンドは、消費者に必要以上の購入を強いることになり、より多くの衣料品が人為的な需要を生み出している。この大量で不要な生産は、ファッション産業を休止する必要性を意味している。

ほとんどの環境汚染は、繊維製品や衣類が製造されているバングラデシュ、カンボジア、インドネシアなどの国で発生している。ザランドゥの示した要件は、人権、公正な賃金、二酸化炭素排出量などの分野におけるブランドのパフォーマンスを測定するものだ。ザランドゥは、ファッション・ブランドが直面している課題をより明確にするために、業界全体の変化を促している。

ザランドゥが行った調査によれば、ファッション消費者の半数以上がブランドに持続可能性を期待しており、30%近くがその企業が環境問題に取り組んでいないと判断した場合、その企業からの購入をやめると回答している。これは世論の変化であり、適応を拒む企業は廃業の危機にさらされることになる。

94864618856907_n.png

Zalandoの持続可能性戦略はdo.MOREと呼ばれ、企業責任、丁寧なスタイル、未来を形作るという3つの重点分野に導かれている。(C)Zalando SE

プラスチック・リサイクルの問題点

持続可能なファッションは、環境保護への牽引力を持っている。しかし、安易なリサイクル・ファッションには懐疑的な批判もある。ペットボトルはビーチで集められるか、海から釣り上げられ、砕かれ、洗浄され、溶かされて糸に加工される。これは、世界中の海洋から大量のプラスチックを取り除き、資源を節約することを目的とし、新しい原油から糸が紡がれることはない。企業は環境に優しく、顧客は明確な良心を持っている。しかし、これは完璧なソリューションのように聞こえるが、長期的には環境への貢献はかなり小さいと、ドイツの循環経済の責任者であるトーマス・フィッシャー氏は言う。

リサイクルプロセスは非常に複雑であり、プラスチックが健康上のリスクをもたらす可能性もある。何年も海に漂っていたプラスチックは、著しく汚染されている可能性があるからだ。「私たちは、その品質がテキスタイルの製造に適しているかどうか疑問視している」と、フィッシャー氏はドイツの新聞TAGESSPIEGELに説明する。「汚染物質を分離することは容易ではない。たとえば、何十年も禁止されていた農薬が、海洋プラスチックから検出されている」と彼は語る。

リサイクル繊維が必ずしもリサイクル可能ではないとすれば、多くのプラスチック製の衣類は焼却される運命にあると、フィッシャー氏は警告している。屋外用ジャケットのほとんどが異なる材料で構成され、化学物質と混合されているため、リサイクルは事実上不可能だ。「再利用できる製品を作ることはもっと効果的だ。古い衣類から新しいものを作るほうが理にかなっている」とフィッシャー氏は指摘する。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米HPが3年間で最大6000人削減へ、1株利益見通

ビジネス

米財政赤字、10月は2840億ドルに拡大 関税収入

ビジネス

中国アリババ、7─9月期は増収減益 配送サービス拡

ワールド

米陸軍長官、週内にキーウ訪問へ=ウクライナ大統領府
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story