最新記事
米経済

家計のストレスで「心身を病む」人が急増...最新調査で見えた「やりくり疲れ」のアメリカ社会

FINANCIAL FATIGUE

2024年7月25日(木)14時58分
ジュリア・カーボナロ(米政治・経済担当)
燃える紙幣に描かれた不安げな表情の人々

ILLUSTRATION BY BRITT SPENCER

<アメリカで行われた最新調査では「2024年ほど経済的ストレスを強く感じた年はない」と答えた人が約半数。今後も続く「生活費危機」を乗り切るためにできることは?>

こんな暮らしをしているはずではなかった、というのがリトルトン夫妻の偽らざる思いだ。

10年前、夫妻はよりよい仕事を求めて故郷カリフォルニア州からテキサス州に移り住んだ。夫のポール(49)は現在、建設会社で見積もりを担当し、プロジェクトマネジャーを務める。妻ステファニー(48)は信託管理関係の仕事をしている。


ポールもステファニーも年齢とともに収入は上がった。だが子供の学資ローンの返済もあり、ここ数年の物価高騰のあおりを受けて今はぎりぎりの生活だ。

50代を目の前にして経済的な状況は20代の新婚当時からちっとも進歩していないと、2人は言う。「生活費が上がったことだけが唯一の違いなのだから、嫌になる」と、ステファニーは嘆く。

「私たちは長女が学資ローンを返すのを助けていて、末娘は家賃の払える住居が見つからずに恋人とわが家に居候中。家計のストレスは私たちの心の健康と家族関係に、破壊的な悪影響を及ぼした」

この手のストレスを経験しているのはリトルトン夫妻だけではない。金融情報サイトのマーケットウォッチから本誌が独占入手した最近の調査結果によれば、経済的不安は大勢のアメリカ人の心の健康をむしばんでいる。

家計の管理を投げ出す人々

2022年6月のピーク時に比べ、インフレは格段に落ち着いた。

しかしマーケットウォッチの調査では、回答者の半数近く(47%)が2024年ほど経済的ストレスを強く感じる年はないと答えた。経済的ストレスをある程度感じるとした回答者は88%、家計のやりくりが最大のストレスだと答えた人は65%に上った。

また生活苦で心の健康が「破壊された」とおよそ41%が答え、「やりくり疲れ」を感じている人は全体の約3分の2に当たる64%だった。

経済的ストレスの影響が表面化するのはメンタルヘルスだけではない。調査では睡眠不足(56%)、肉体疲労(47%)、頭痛(45%)、体重の増減(38%)、食欲の変化(34%)、消化不良(33%)といった症状が報告された。

「物価高による『生活費危機』が全米で家計を圧迫し続けるなか、生活の苦しい人々の多くが今後ますますやりくりに苦労するだろう」と価格調査サイト、マネーエキスパートのディレクター、リズ・ハンターは予想する。

「低所得者層には借金や経済的不安への対処に慣れている人もいるが、今回の生活費危機で生まれて初めて金の苦労を知った人も少なくない」

リトルトン夫妻も後者だ。生活費の高騰を受け、ステファニーは「収入の上昇に合わせて今まで享受してきた食事のデリバリーやスポーツジム通い、家事代行サービスといった贅沢」をやめた。

定期的な運動は心身の健康に有効だから、「ハイキングコースや自転車用のトレイルが近くにあってうちはラッキー」だと彼女は言う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ケンタッキー州でUPS機が離陸後墜落、3人死亡・

ビジネス

JPモルガン、「デバンキング」問題で当局の問い合わ

ビジネス

パープレキシティ、AIエージェント巡りアマゾンから

ビジネス

任天堂株が急伸、業績・配当予想引き上げ スイッチ2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中