最新記事
アメリカ

クリップスとブラッズ、白人至上主義、ヒスパニック系...日本人が知らないギャング犯罪史

2024年7月4日(木)18時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

白人至上主義のプリズン・ギャングで最初にできたのは、公民権法の成立からまもなく、サンフランシスコ近郊のサン・クエンティン州立刑務所でマルクス・レーニン主義に影響を受けたブラック・ゲリラ・ファミリー(BGF)に対抗して誕生したアーリアン・ブラザーフッド(AB)である。

疑い深く、神経過敏で、偏見に凝り固まったABは「殺しを経験する(メイキング・ワンズ・ボーンズ)」なる冷酷な加入条件を設けた。

加入を希望する者は、敵対するギャングのメンバーや、人種の違う囚人か看守に暴行を加えるか、殺すことを要求された。こうして、容易に手に負えない人種間戦争が始まり、またたく間に米国の大部分の刑務所へと広がっていった。

ペッカーウッズは刑務所だけでなく、次第にストリート、とりわけ南カリフォルニアのストリートで数を増していった。現在、更生もせずに釈放された囚人が、委託殺人や個人情報窃盗、武装強盗、メタンフェタミン(訳注 覚醒剤の一種)の製造など、考えられるかぎりの犯罪にかかわっている。

こうした集団は、鉤十字や88という数字などのネオナチに典型的なシンボルを好んで身につけていても、だいたいがイデオロギーより金銭欲に突き動かされ、別の人種のギャングと業務提携することもいとわず、大金を得られる事業に手を出す傾向がある。ただし、黒人と手を組むことはない。

いまや戦いの第一目標は利益になったとはいえ、白人至上主義のギャングはなおも人種の問題をなおざりにはしていない。メンバーには、70年前と変わることなく黒人の家族に嫌がらせや脅迫をして、住んでいる場所から追い出す悪質な者がいるし、人種憎悪をあおる発言も、新たなメンバーを引き寄せて取りこむために、いまでも刑務所で使われている。

それでも昔から、たとえヒスパニックの祖先がいても、白人を自認し、白人種への忠誠を公言する者をメンバーに受け入れてきた例外的な白人至上主義のギャングもある。

サクラメント近郊のカリフォルニア州少年院に収容されていたジョン・スティンソンが1978年に創設したナチ・ローライダーズ(NLR)は、刑務所を拠点としたABとの連携によって急速に拡大した。

この時期、ABの幹部の多くが独房に監禁されており、ギャングへの影響力が制限されていた。NLRはこのすき間を埋め、カリフォルニアの刑務所で――その後はほかの州の刑務所でも――ABの広範な犯罪ネットワークのなかで仲介や代理を行った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米テキサス・ニューメキシコ州のはしか感染228人に

ワールド

米政権、TikTok売却巡り4グループと協議=トラ

ビジネス

再送米アーティザン、セブンのCEO人事に反対 買収

ビジネス

マスク氏のxAI、テネシー州で土地購入 スパコン拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 9
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中