最新記事
アメリカ

クリップスとブラッズ、白人至上主義、ヒスパニック系...日本人が知らないギャング犯罪史

2024年7月4日(木)18時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

さらに1980年代と90年代の「犯罪に厳しく(タフ・オン・クライム)」の方針――麻薬所持や、執行猶予と仮釈放中の違反行為のような比較的軽くて小規模で暴力を伴わない犯罪に関与した人を投獄することを目的としていた――によって、カリフォルニアの刑務所は信じられないほどの過密状態になった。

威圧的で不穏な施設のなかで人種別のギャングが勢力を拡大し、暴力で紛争を解決したり、メンバーに規律を守らせたり、無関係な囚人を脅して仲間に加えたりしたことは少しも不思議ではない。

カリフォルニアの各刑務所で人種間の暴力が大変深刻になったため、州は危険人物と見なされる囚人を人種的に隔離するという非公式のルールを採用した。2005年、連邦最高裁判所はカリフォルニア州に対して、この措置を中止するよう命じた。それでも最高水準のセキュリティを有する刑務所はまだ、特定の囚人の隔離は異なる出身の囚人同士が喧嘩する(そして、相手を殺す)ことを防ぐために必要であると考えている。

その点について言えば、人種統合が行われた刑務所でも、大半の囚人は、生き延びるために同じ人種で固まるべきだと考えており、食堂のような共用スペースでは別の人種と距離を置いている。

最悪の暴力を生み出したヒスパニック・ギャングの分断

また、ヒスパニック・ギャングのメンバーのあいだで、地理上の大きなへだたりが最悪の暴力の基盤にもなっているのは興味深い。具体的に言えば、刑務所に入れられたときに、だいたいの者は所属していたストリート・ギャングに関係なく、スレーニョス(スペイン語で「南部人」という意味で、カリフォルニア南部の出身者のこと)か、ノルテーニョス(「北部人」という意味で、カリフォルニア北部の出身者のこと)に二分される。

この地域的な分断が生まれたのは1970年代で、当時、かたや南カリフォルニアのメキシカン・マフィア、かたや北カリフォルニアのヌエストラ・ファミリアへの忠誠を公言していた2つのグループが対立していた。

いまでは州のヒスパニックの刑務所(プリズン)ギャングとストリート・ギャングの大半が、セントラル・バレーの南の端を東西に横切る見えない線によって大まかに分けられ、スレーニョスかノルテーニョスのどちらかとつながっている。

かなり前から刑務所で特に深刻な問題になっている白人至上主義のギャングは、戦闘的な集団であるのを示すために、「ペッカーウッズ」と名乗ることが少なくない。この呼び名は、もともと貧しい白人を意味する19世紀のアフリカ系米国人のスラングで、当時は軽蔑的な意味で使われていたのだが、1960年代の激動のなかで団結を目指した人種差別主義者の白人の囚人たちがそれを拝借した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩める大統領令に近く署名か 米

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中