最新記事
北欧

フィンランドが「世界一幸福な国」でいられる本当の理由...国民の安全を守る「国防」の現実

2024年6月18日(火)19時43分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

人口550万人のフィンランドには、5万500カ所のシェルターが存在し、有事の際には合計で480万人を収容することができる。そのうちの公共シェルターは約200カ所。シェルターの91%がミサイルなどの攻撃にも耐えうるもので、83%はガスや放射線に対しても安全だという。

フィンランド国民の安全を守るシェルター

フィンランド国民の安全を守る公共シェルター

筆者が訪問したヘルシンキ市内の140戸ほどの集合住宅では、法律でシェルターの設置が義務付けられている。平時には住民のロッカールームとして機能し、ミサイル攻撃や武力侵攻など国外からの脅威が迫った場合にはすべての住民を守るシェルターとなる。有事の際には国内のすべてのシェルターが72時間以内に完全に使えるようにする必要がある。

「そのために、毎年業者が来て、シェルターの機能を維持するためにチェックをして、もしもの場合に備えています」と言うのは、この集合住宅で住民代表を務めるオスカリ・オヤラ氏だ。

「有事の際に避難する人のために、仮設トイレも設置されていますし、シャワーを浴びることができるテントも用意されています。シェルター内の空気を交換するための独立した換気口も設置されている。また、放射能汚染に備えて、避難民全員が摂取できる安定ヨウ素剤も常備しています」

フィンランドの街中には、自治体が保有する大規模な公共シェルターも存在する。そのうちの一つ、ヘルシンキ市メリハカ地区のシェルターは、地下30メートルほどにある岩盤を掘削して作られたものだ。

フィンランド国民を守るシェルター内部の様子

フィンランド国民の安全を守るシェルター

フィンランド国民の安全を守る公共シェルターの内部

広大なシェルター内を歩くと、空気がひんやりとしているのがわかる。ヘルシンキ市救助局のコミュニケーション・スペシャリスト、ニナ・ヤルヴェンキュラ氏は、「ここでは、有事の際には6000人ほどを収容できます。住民だけでなく旅行者でも外国人でも分け隔てなく受け入れます」と話す。

平時ではそのシェルターのスペースは民間企業に貸し出されており、スポーツジムやホッケーなどに使える広いコートになっていた。

国外からの脅威に対するこうした備えが、フィンランド人の心の安寧に寄与している。国の安定には国防意識による準備が欠かせないことをフィンランドから学ぶことができるだろう。

すぐ隣のロシアからミサイルが飛んでくるかもしれない不安に対して、国民はシェルターなどの設備を整えることで安心感をもてる。翻って、北朝鮮から頻繁にミサイルが飛んでくる日本にはどのような備えができているのだろうか。

ミサイルが発射されると、けたたましく全国瞬時警報システム(Jアラート)などが鳴り響き、「建物の中、又は地下に避難してください」と呼びかけられているが、住民はどこに逃げればいいのだろうか。公共シェルターの設置や放射能対策のヨウ素剤の備蓄などについては国が具体的に議論している様子はない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

26年ブラジル大統領選、ボルソナロ氏長男が「出馬へ

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管

ワールド

アングル:シンガポールの中国人富裕層に変化、「見せ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中