フィンランドが「世界一幸福な国」でいられる本当の理由...国民の安全を守る「国防」の現実
筆者は今回、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領にインタビューすることができた。アジアのメディアとしては初のインタビューになる。そこで、すでに世界一幸せな国が、なぜ軍事同盟に加盟するのか、その理由を聞いてみた。
ストゥブ大統領は、「国の安全保障が幸福につながっているなら、NATOに加盟するのは当然だ」と述べる。国民の幸福の鍵の一つに国防意識があるということだが、ストゥブ大統領は「私たちにとって対外的な安全保障政策は実存的なもの」であり、「幸福度はかなり主観的なものだが、NATOの枠組みの中で活動できることに加えて、教育、自然、信頼、福祉、一人当たりのGDPなども要素になる」と話した。
フィンランドは国を守るために「包括的安全保障」という安全保障戦略を提唱している。その戦略では、「リーダーシップ」「世界とEUの活動」「国防能力」「国内治安」「経済、インフラ、供給源の安全」「国民やサービスの機能的能力」「心理的回復力」の7つの要素が鍵となっており、これらがダイアモンドの形を作って相互につながっていくことで国家の安全保障を包括的に守っていくことになる。
フィンランド国防省の安全保障委員会のペッテリ・コルヴァラ事務局長は、「これら7つの機能を、あらゆる状況下において維持する必要がある。つまり、日常業務でこれらを実行し続けることで、すべての潜在的な脅威に備え、必要に応じて脅威に抵抗し、それが現実のものとなったときに脅威から回復できるようにするのも大事だ」と語る。
隣国の旧ソビエト連邦(ロシア)の存在
フィンランドの「包括的安全保障」は、もともと隣国の旧ソビエト連邦(ロシア)の存在によって形作られてきた。「私たちの社会全体のモデルは歴史に深く根ざしている。第2次大戦後から冷戦時代にも独立して安全保障を守る準備を続け、それを包括的安全保障に昇華してきた」と、コルヴァラ事務局長は語る。
東欧地域では1991年のソビエト連邦の崩壊で脅威状況が一変した。旧ソ連の国々が独立し、それぞれが欧州の西側諸国との関係で立場を示す必要が生じた。その変化は1917年から独立国だったフィンランドにもおよび、フィンランドは1995年にEU(欧州連合)に加盟。それまで築いてきた独自の安全保障政策から、より欧州諸国と相互に結びついた安全保障にシフトし、2023年にはロシアの軍事活動を受けて、国民の求めに呼応してNATOに加盟した。
「世界一幸せな国」の実像として意外に思うかもしれないが、こうした国防意識は深く社会にも根付き、国民に安心を与える材料となっている。その一例は、シェルターの存在が挙げられる。