最新記事
日本社会

日本の部活動は「滅私奉公」サラリーマンを育てる隠れカリキュラム

2024年5月30日(木)15時10分
舞田敏彦(教育社会学者)
運動部の生徒

日本の教育現場で教員は「異次元の部活指導」を強いられている photo-ac

<大学時代に運動部活動の経験があると日本の企業では高く評価される(年収が多い)傾向が見られる>

教員に支給される教職調整額を4%から10%に引き上げる案が示されている。教員の場合、不測の事態で時間外労働が生じることが多々あるが、残業代は払われず、代わりに月収の4%が上乗せされる。これが教職調整額と呼ばれるものだ。

言うなれば「月収4%の上乗せで使い放題」ということで、以前から多くの批判が上がってきた。それで10%に引き上げようとなったのだが、現場では「そういう問題ではない」という反発が渦巻いている。「これだけ上乗せするから、エンドレスで働け」という考え方は変わらない。だが教員の本音は、「カネはいいから時間(ゆとり)をくれ」に尽きる。

ひとまずカネの問題と考えるにしても、教員の時間外労働は長く、月収の数%上乗せでよしとできるものでもない。その最たる原因は部活指導だ。日本の教員の労働時間は世界一長いが、授業や授業準備の時間は国際平均より短い。何で差が出ているかというと、事務作業や課外活動指導だ。

日本だと、後者の大半は部活指導と考えていい。中学校教員のデータを見ると、週の課外活動指導時間の平均値は7.5時間、週10時間以上課外活動指導をしている教員の割合は38.3%(OECD「TALIS 2018」)。これが特異なのは、他国と比較すると分かる。<図1>は、2つの指標のマトリクス上に調査対象の47カ国を配置したグラフだ。

newsweekjp_20240530043349.png

日本のドットは、右上にぶっ飛んでいる。われわれが日ごろ目にする光景が、国際的に見て異常なのは一目瞭然だ。左下の原点付近には北欧の諸国があるが、これらの国では中学校教員の8割以上が課外活動指導にはノータッチだ。そもそも学校での部活という概念がなく、この種の活動は地域のスポーツクラブ等に委ねられている。多かれ少なかれ、他国も似たようなものだろう。

日本の教員は「異次元の部活指導」をしている(強いられている)のだが、その教育的効果はあるだろう。少しのことでへこたれない耐性や協調性が育まれる、といったことだ。日本企業の強みの一因を、学校での部活を通した人間形成に求める声もある。企業も特に運動部の活動経験を評価する傾向があり、学生も採用面接でそれをアピールする。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:外国投資家が中国株へ本格再参入うかがう、

ビジネス

ティッセンクルップ鉄鋼部門、印ナビーン・ジンダルか

ビジネス

米テスラ、19年の死亡事故で和解 運転支援作動中に

ビジネス

午前の日経平均は続伸、朝安後に切り返す 半導体株し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中