最新記事
東南アジア

激化するミャンマー内戦の調停にタイのタクシン元首相が名乗り?

A Mediating Comeback

2024年5月13日(月)16時12分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
激化するミャンマー内戦の調停にタイのタクシン元首相が名乗り?

知名度と実績を生かせるか(昨年8月、亡命先から帰国したタクシン) ATHIT PERAWONGMETHAーREUTERS

<タイのタクシン元首相とミャンマーの民主派や少数民族との「秘密会談」が明るみに。元首相としての外交実績は十分だが、非公式協議のパイプ役としての力量は>

タイのタクシン・シナワット元首相が、激化するミャンマー内戦の調停に乗り出そうとしているようだ。

ミャンマーメディアの5月6日の報道によれば、タクシンはミャンマー軍事政権に対抗する民主派の代表的勢力である国民統一政府(NUG)の代表のほかカレン民族同盟、シャン州復興評議会、カレンニー民族進歩党、カチン民族機構など少数民族勢力の関係者らと会談したという。

米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、この非公式会談は3~4月にタイ北部のタクシンの故郷、チェンマイで行われた。チェンマイはミャンマー国境に近く、亡命者の政治活動が活発であることで知られる。

タクシンは昨年、長期の亡命生活からタイに帰国。首相在任中の汚職などで禁錮8年の刑となったが2月に仮釈放され、早速セター・タウィーシン首相率いるタイ貢献党の政権に影響力を振るっている。

VOAが引用した匿名の情報筋によれば、タクシンは軍事政権と敵対する諸勢力との間を仲介する意向を示している。またミャンマー訪問の許可も求めているが、軍事政権から正式な返答はないという。

今回の一件との関連性は不明だが、タイでは最近、内閣改造への不満などから外相など閣僚が相次いで辞任。代わりにタクシンの長年の盟友、マリス・サンギアポンサが新外相に就任している。

マリス外相はチェンマイで非公式会談が行われたことを認めつつ「個人レベルのもので、タイ政府の政策の一部ではない」と強調。一方、「タクシン氏は著名で、コネクションがある。ミャンマーは彼が助けになると信じているようだ」とも付け加えた。

また7日、セター首相はタクシンの会談に関するいかなる情報を持っていないと表明。「そのような話し合いがあったかどうかは知らない。しかし、誰もがかの国に対して善意を抱いていると私は信じる」と語っている。

「黄金期」をもたらした男

ミャンマー国軍は8日、タクシンと民主派などとの接触に不快感を示した。だが今後、タクシンが仲介者として受け入れられる余地は十分ある。

なにせタクシンは2001年の首相就任後、国境紛争などで対立していたタイとミャンマー軍事政権の関係を改善させた実績がある。同年、タイ現職首相として初めてミャンマーを訪問。

政治学者のパビン・チャチャバルポンプンに言わせるとタクシン時代は両国関係の「黄金期」だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:FRB当局者、利下げの準備はできていると

ワールド

米共和党のチェイニー元副大統領、ハリス氏投票を表明

ワールド

アングル:AI洪水予測で災害前に補助金支給、ナイジ

ワールド

アングル:中国にのしかかる「肥満問題」、経済低迷で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 5
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中