最新記事
サイエンス

問題はプベルル酸が入っていた「量」だ...小林製薬はなぜ異物混入を見抜けなかった? 東大准教授がゼロから徹底解説

Search for Fatal Ingredient X

2024年4月10日(水)08時30分
小暮聡子(本誌記者)

newsweekjp_20240409042118.png

紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合(3月29日)厚生労働省提出資料より

私が調べる限りでは、問題のロットに含まれるプベルル酸の量に関連する情報が見られるのは、小林製薬から厚生労働省の薬事・食品衛生審議会に提出されたという資料(公開済み)くらいで非常に限られます。その資料には、保存されていた紅麹原料のロットサンプルをHPLCで分析したと思われるもの(写真中①~④, ⑦~⑨)が記載されています。質量に関する情報は読み取れません。

これを見ると、2023年9月および同年10月に製造されたロット(③②)において、確かに赤矢印で示された「ピークX=プベルル酸(と同定)」の含有量が大幅に増えているように見えます。しかしこの資料に示す分析結果が、ロットサンプル全体の構成成分を万遍なく分析できているかどうか不明であるため、これだけを見て正確な議論をすることは難しいです。

どちらかと言えば、問題を理解しやすくする目的で、プベルル酸に似た性質を持つものの検出方法のみに絞ったもので、さらに縦の縮尺を変えて表示している可能性が高いと思われます。その場合、通常含まれている「意図した成分」に対するプベルル酸の相対的な量を知ることはできません。

もしプベルル酸の含有量が通常では見逃すほどの、例えば極小さなピークで表れるような微量だったとしたら、複数の人を死に至らせるほど極めて強力な毒性があるのでしょうか。ちなみに、マウスが死んだという試験では結構な量のプベルル酸を入れていたと思います。なので、結構な量のプベルル酸を摂取しないと人は死なないのではないかとも想像します。あるいは毒性自体は弱くてもその物質が体外に排出されにくい人の場合は体内にたまっていくなど、他の因子との複合的な要因が関与する可能性も考えられます。

少し話はそれますが、プベルル酸を生産する青カビが作ると報告されている特異な化合物が他にも知られているならば、HPLCによる分析を用いて、それらを問題の製品から探すことも解明の糸口として有効でしょう。もし仮に検出されれば、どこかの段階で青カビが混入したことを更に有力視できるだけの「物証」が得られると思います。一般的に、問題とされる青カビがプベルル酸のみを生産するとは考えにくいからです。

いずれにせよ、プベルル酸以外のものが原因物質である可能性も捨てずに、多角的に検証することが重要だと思っています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウ大統領府長官の辞任、深刻な政治危機を反映=クレム

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中