ハマスはイスラエルに「必要」な存在だった...パレスチナ「75年間の歴史」で、紛争を基礎から理解する
Vengeance Is Not a Policy
このような関係は、イスラエルがガザに繰り返し攻撃を加えることにより強化されてきた。イスラエルは、08~09年に23日間、12年に8日間、14年に50日間、21年に11日間軍事行動を行い、08年から今年9月までの間に合計で6400人以上のパレスチナ人を殺害した。
その一方で、このような対ハマスの軍事行動──「芝刈り」とイスラエル側は呼ぶ──の間の時期には、イスラエル政府とハマスはそれなりに協力し合い、人道上の惨事を回避し、ハマス幹部に給料を支払い、イスラム聖戦と過激派組織「イスラム国」(IS)を抑え込んできた。刑務所ではたいてい、看守は刑務所の管理に役立つ囚人組織と手を組むものだ。
自国領土だからできたこと
イスラエルの首相らがパレスチナ自治政府よりハマスに好意的な発言を述べていることから、最近のネタニヤフ政権がガザ統治について、過去のどの政権よりもハマスに依存していることが分かる。「鉄のドーム」による対ミサイル防衛と、多額の予算を投じた地下防護壁によって、ハマスがロケット弾を発射したり、トンネルを掘ってイスラエルを攻撃したりする力をほぼ奪ったネタニヤフは、ハマスを「手なずけた」というイメージをつくり上げた。
イスラエル紙ハーレツによると、ネタニヤフは19年3月の国会議員の会合で、「パレスチナ国家の樹立を阻止したい者は、ハマスの強化やハマスへの送金を支持しなければならない」と述べた。「これは、ガザのパレスチナ人をヨルダン川西岸のパレスチナ人から孤立させるというわれわれの戦略の一部だ」
ガザの「監獄」を爆発させないためにハマスに頼るというネタニヤフの方針によって、イスラエル政府はいくつかの施策に集中できた。
まずヨルダン川西岸の入植を進めること、パレスチナ人に市民権や政治的権利を与えることなく併合を可能にするために司法制度の見直しを推進すること、そしてパレスチナ当局にはもはや制御を期待できない過激派を逮捕・殺害するためにパレスチナの都市や難民キャンプを急襲することなどだ。
将来の暴力的な反乱を防ぐには、このように現在を考えることが必要になる。現実を見れば、ガザはイスラエルの問題だ。それはガザがイスラエルの一部だからだ。大半の政府やメディアはこの戦いを国家間の戦争だと言うが、そうではない。