最新記事
現代史

ハマスはイスラエルに「必要」な存在だった...パレスチナ「75年間の歴史」で、紛争を基礎から理解する

Vengeance Is Not a Policy

2023年12月21日(木)17時13分
イアン・ラスティック(ペンシルベニア大学名誉教授〔中東政治〕)

231128P22_GDS_03.jpg

ハマス創設20周年を祝う集会(2007年12月) ABID KATIB/GETTY IMAGES

このような関係は、イスラエルがガザに繰り返し攻撃を加えることにより強化されてきた。イスラエルは、08~09年に23日間、12年に8日間、14年に50日間、21年に11日間軍事行動を行い、08年から今年9月までの間に合計で6400人以上のパレスチナ人を殺害した。

その一方で、このような対ハマスの軍事行動──「芝刈り」とイスラエル側は呼ぶ──の間の時期には、イスラエル政府とハマスはそれなりに協力し合い、人道上の惨事を回避し、ハマス幹部に給料を支払い、イスラム聖戦と過激派組織「イスラム国」(IS)を抑え込んできた。刑務所ではたいてい、看守は刑務所の管理に役立つ囚人組織と手を組むものだ。

自国領土だからできたこと

イスラエルの首相らがパレスチナ自治政府よりハマスに好意的な発言を述べていることから、最近のネタニヤフ政権がガザ統治について、過去のどの政権よりもハマスに依存していることが分かる。「鉄のドーム」による対ミサイル防衛と、多額の予算を投じた地下防護壁によって、ハマスがロケット弾を発射したり、トンネルを掘ってイスラエルを攻撃したりする力をほぼ奪ったネタニヤフは、ハマスを「手なずけた」というイメージをつくり上げた。

イスラエル紙ハーレツによると、ネタニヤフは19年3月の国会議員の会合で、「パレスチナ国家の樹立を阻止したい者は、ハマスの強化やハマスへの送金を支持しなければならない」と述べた。「これは、ガザのパレスチナ人をヨルダン川西岸のパレスチナ人から孤立させるというわれわれの戦略の一部だ」

ガザの「監獄」を爆発させないためにハマスに頼るというネタニヤフの方針によって、イスラエル政府はいくつかの施策に集中できた。

まずヨルダン川西岸の入植を進めること、パレスチナ人に市民権や政治的権利を与えることなく併合を可能にするために司法制度の見直しを推進すること、そしてパレスチナ当局にはもはや制御を期待できない過激派を逮捕・殺害するためにパレスチナの都市や難民キャンプを急襲することなどだ。

将来の暴力的な反乱を防ぐには、このように現在を考えることが必要になる。現実を見れば、ガザはイスラエルの問題だ。それはガザがイスラエルの一部だからだ。大半の政府やメディアはこの戦いを国家間の戦争だと言うが、そうではない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中