最新記事
レアメタル

中国のレアメタル規制は不発に終わる...ロシアの禁輸に学ぶ5つの教訓

MORE BARK THAN BITE

2023年8月14日(月)15時40分
アガート・ドマレ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

230815p60_RMT_03.jpg

コンゴ民主共和国のコバルト鉱山で採掘された原石を運ぶベルトコンベア LUCIEN KAHOZIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

中国の脅しは欧米諸国での精製インフラ開発を加速させ、中国の支配的地位を失わせる可能性がある。中国以外の国に新たな精製施設を建設するには理想的なタイミングだ。世界的なグリーン転換により、2020年代には重要原材料の需要が4~6倍になると予想されている。そもそもボリビアやブラジル、コンゴ民主共和国、ギニア、インドネシアなどの生産国が鉱石採掘場の近くに精製施設を建設すれば、自国産品の価値を飛躍的に向上させられる。

欧米の民主主義陣営が、途上国の経済における中国の影響力に立ち向かうチャンスともなる。EUや日本、アメリカは資源国に対して寛大な融資をし、各国の事情に合わせた契約を結び、必要なら精製加工の技術を提供すればいい。

教訓4 危機は同盟国間の協力を促す

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は天然ガスの輸出停止でEU全体の緊張と分裂をあおり、欧州諸国をアメリカから引き離そうとした。だが、この作戦は裏目に出た。

欧州各国は供給をめぐって争う代わりに天然ガスの共通購入メカニズムを構築し、アメリカその他の国からのLNG輸入を増やした。

同様に、中国が重要原材料の輸出を止めれば、同じ立場の国々の協力に弾みがつくことだろう。既にその兆しは表れており、欧米諸国は重要原材料の供給を確保するための協力について話し合っている。協力をさらに深める措置として、EUは重要原材料の「バイヤーズ・クラブ」の設立を提案している。

もちろん、同盟国間の協力が全て順調にいくとは限らない。採掘・精製施設を運営するのは民間企業だ。オーストラリアやカナダ、南アフリカ、イギリスの企業はアフリカにおける鉱山探査費用の約80%を担っている。これらの企業は、最も収益性の高いプロジェクトをめぐって今も競争を繰り広げている。

公的な協力は鉱物資源のマッピング、採掘基準の作成、重要原材料のリサイクル方法の研究など、採算性の低い活動に対して行われる可能性が高い。

国際エネルギー機関(IEA)は今年9月に、重要原材料に関する第1回サミットを開催する予定だ。これはIEAがこの問題の取り組みの先頭に立つチャンスになるだろう。

教訓5 資源供給国としての信頼を失うのは中国にとって損失

天然ガスの供給を止めたロシア政府の判断の、おそらく最も長期的で想定外の副作用は信頼の低下だろう。今後長年にわたり、ロシアはエネルギー供給国としての失われた信頼を取り戻すのに苦労する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中ロ首相が会談、エネルギー・農業分野で協力深化の用

ワールド

台湾、軍民両用技術の輸出規制をさらに強化へ

ビジネス

フォード、アマゾンで中古車販売開始 現代自に続き2

ワールド

トランプ氏、メキシコ・コロンビアへの麻薬対策強化支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中