最新記事
レアメタル

中国のレアメタル規制は不発に終わる...ロシアの禁輸に学ぶ5つの教訓

MORE BARK THAN BITE

2023年8月14日(月)15時40分
アガート・ドマレ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
ドイツの半導体生産工場

ドイツの半導体生産工場。中国が輸出規制を開始したガリウムについて、ドイツ企業は自給体制強化を目指す ROBERT MICHAELーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<天然ガスの輸出を止めたロシアに続き、今度は中国がガリウムなどの輸出規制に踏み切ったが、結局は自分の首を絞めるだけ>

資源は「武器」だと、みんな思いたいのだろう。ウクライナに侵攻したロシアは昨年9月に、アメリカと結託した欧州諸国を懲らしめるため、天然ガスの供給を大幅に減らした。それから1年、今度は中国が、ハイテク製造業に不可欠なレアメタル(希少金属)のガリウムとゲルマニウムを含む製品について厳格な輸出規制を始めた。今後、輸出には当局の許可が必要になる。

ガリウムとゲルマニウムには2つの共通点がある。①どちらも再生可能エネルギーへの転換(いわゆる「グリーン転換」)やデジタル機器、軍事装備品の製造に欠かせない重要原材料(約30種類ある)で、②その採掘・精製に関しては中国が圧倒的なシェアを誇っている。だから中国側は、これが西側諸国に対する武器になると考えている。

ちなみに米地質調査所(USGS)によると、アメリカ企業に対するガリウムの供給が30%減った場合、GDPの成長率が2%ほど下がると予想される。ロシアの天然ガス禁輸が欧州諸国に及ぼすと思われる影響とほぼ同じだ。

では、こうした脅威はどこまで本物なのか。ここで参考になるのは、自国の天然ガスを武器化したロシア政府の例だ。ロシアの禁輸措置には、中国の指導層を思いとどまらせるに足る5つの教訓がある。そして結論を先に言うなら、重要原材料の供給抑制が西側経済に短期的な悪影響を与えるのは事実だが、そのツケはいずれ自国に回ってくる。

教訓1 重要原材料の価格上昇は必ずしも悪いことではない

ロシアが天然ガスの供給抑制を発表すると、欧州全域でエネルギー価格が高騰し始めた。同様に、中国が何らかの重要原材料の輸出を全面的に禁止すれば、その原材料の価格は世界中で急騰するだろう。21年に中国のマグネシウム精製施設の一部が操業を停止したときはマグネシウムの国際価格が260%も上昇し、自動車などの製造部門に影響が出た。

しかし中国が主要な生産国となっている重要原材料の価格が上昇しても、その影響は多くの人が懸念するほど大きくなさそうだ。

そもそも、こうした1次産品の価格は安い。EUの場合、人工衛星や半導体、ハイテク兵器の製造に欠かせないベリリウムの年間輸入額は500万ドル、触媒コンバーターに使うパラジウムでも40億ドルにすぎず、その他のレアメタルもせいぜい数億ドル程度だ。EUの年間輸入額全体(約3兆ドル)に比べたら微々たるもので、価格上昇は深刻な問題にならない。

ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、マクロン氏とパリで会談 「持続可能

ビジネス

ビットコイン再び9万ドル割れ、一時6.1%安 強ま

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中