最新記事

レアメタル

中国のレアメタル規制は不発に終わる...ロシアの禁輸に学ぶ5つの教訓

MORE BARK THAN BITE

2023年8月14日(月)15時40分
アガート・ドマレ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

230815p60_RMT_02.jpg

電気自動車の燃料電池にリチウムは不可欠だが(岡山県倉敷市にある三菱自動車工業の工場) KIYOSHI OTAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

現時点で中国産のシェアが高いのは、あの国がダンピングで市場を制覇し、他国の競争力をそいでいるためだ。しかし価格が上昇すれば中国以外の生産者も市場に参入しやすくなる。21年にガリウム価格が上昇したときは、ドイツの企業がガリウム生産の再開を発表している。

教訓2 代わりになる供給国は必ず見つかる

ロシアが天然ガスの供給を止めれば、EU諸国は寒い冬に燃料を確保できずに困るはずだと、ロシア側は踏んでいた。

しかし現実は違った。欧州各国はノルウェーやアルジェリア、アメリカなどから天然ガスを調達することができた。中国が重要原材料の輸出を規制しても同じことになる。そもそも西側諸国は、今でも中国への依存度を下げようと努力している。

もちろん、代わりの供給国を見つけるには時間と費用がかかる。しかし中国は、一部の重要原材料に関しては主要な生産国だが、決して「唯一の」生産国ではない。

レアアースを除けば、EUは5つの重要原材料(ビスマス、コバルト鉱石、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム)の65%以上を中国から輸入している。だが中国以外の産出国も、価格が上昇すれば喜んで生産を拡大するはずだ。

世界のグリーン転換に欠かせない6つの原材料(リチウム、グラファイト、コバルト、マグネシウム、ニッケル、銅)は、中国以外の国でも採れる。これらの鉱物の埋蔵量が中国以外で最も多いのはオーストラリア、チリ、コンゴ民主共和国、インドネシア、そしてトルコだ。

これら原材料の新たな鉱脈が発見される可能性もある。昨年もオーストラリアやカナダの企業を中心に、鉱脈探査への投資額は20%ほど増加している。

教訓3 グリーン転換で欧米各国における精製施設の建設が進む

欧州のエネルギー危機が始まった頃、ロシア側は、欧州には他国から輸入する液化天然ガス(LNG)を処理する十分なインフラがなく、不足分を補えないと見込んでいた。

それから1年、今や欧州のLNG処理能力は過剰になるほどで、ロシアの脅しは欧州諸国におけるインフラ開発を加速させただけだった。

重要原材料も、採掘後の精製インフラを必要とする。この分野で覇権を握っているのは中国で、例えば世界のリチウム産出量の約50%から70%を精製している。だがこの状況が永遠に続くとは思えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:人民銀の債券取引、政策手段として機能発揮に長

ビジネス

国債先物は続落で引け、長期金利1.025% 12年

ビジネス

日経平均は反発、米株高を好感 指数寄与度高い銘柄に

ビジネス

午後3時のドルは156円後半で売買交錯、米英休場で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中