最新記事
ウクライナ戦争

ロシアの火砲5000門を破壊、砲撃戦を有利に展開しながら勝てないウクライナ

How Russia Lost '5,000 Artillery Systems' in Ukraine

2023年8月16日(水)21時15分
エリー・クック

大量の弾薬が飛び交っているのは確かでも、両軍の火砲そのものが何門破壊されたのかを把握するのは容易ではない。

英王立統合軍事研究所(RUSI)のニック・レイノルズ陸戦専門研究員によると、ロシアの砲撃兵器がどの程度破壊されたかは不明だが、ロシア軍の砲撃が減ったことは確かだという。背景には、兵器の破壊に加え、弾薬不足もあるとみられる。

5000門余りが破壊されたというウクライナ軍参謀本部の発表は「かなり正確だろう」と、元英陸軍大佐で、イギリスとNATOの化学・生物・放射性物質・核(CBRN)防衛チームを率いたハミッシュ・ディ・ブレトンゴードンは本誌に語った。ウクライナ軍はロシア軍の火砲を次々に破壊しており、兵器の補充はとうてい間に合わないというのだ。

ディ・ブレトンゴードンら一部専門家は、ウクライナ軍の砲撃は戦術的にロシアのそれに勝るとみている。その鍵を握るのが、この戦争で一躍注目を浴びたドローン(無人機)だ。

ウクライナ軍はドローンを偵察に活用することで砲撃の精度を上げている、と彼らは言う。砲弾が落ちた場所にドローンを飛ばせば、ロシア軍の被害状況を確認できる。標的を外れていたら、砲手はドローンのカメラでそれを目視して調整を行い、再び砲撃を行う。

この方法で砲撃の精度は飛躍的に高まった。「ゲームチェンジャー」とも言うべきその効果には、西側の軍事専門家も注目していると、ディ・ブレトンゴードンは言う。

「このアイデアにはNATO軍も脱帽するだろう。『必要は発明の母』とはまさにこのことだ」

防衛戦突破に必要な条件

ディ・ブレトンゴードンによれば、ドローン、そしてスマートフォンとアプリを組み込むことで、ウクライナ軍の砲撃は威力を増したが、ロシア軍はこの方法を取り入れていない。急きょ召集され、十分な訓練も受けずに戦場に送り込まれたロシアの徴用兵たちは、ドローンの操作などできないからだ。

ウクライナ軍の反転攻勢が始まった段階では、激しい砲撃でロシア軍の防衛戦を突破できるとの期待があった。

だがウクライナ軍は、塹壕や広大な地雷原、「竜の歯」などの障害物と、ロシア軍が何重にも張り巡らした堅牢な防御陣地は容易に崩れず、膠着状態が続いている。

何カ月も前から入念に構築されていたロシアの防衛陣地がウクライナ東部と南部の現在の前線の多くで、ウクライナの砲兵隊を苦戦させていると、エリソンは指摘する。

「理想を言えば、地上部隊への空からの援護か、装甲車両による敵陣突破と砲撃を組み合わせること」で、ロシアの防御陣地を切り崩せると、エリソンは言うが、現実にはそれは望めない状況だ。


20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中