「サラミ戦術」の逆効果...中国にとっての「悪夢」が現実に
SLICING UP INDIA
中国の領土拡張は「サラミ戦術」、すなわち国境地帯を少しずつ侵食し、いつの間にか相手国が領土を失わざるを得ないような戦略を取ってきた。南シナ海の岩礁に島を造成して、軍事施設を構築し、「中国の一部」という既成事実をつくっているのがいい例だろう。
習は今、この戦略をヒマラヤでも展開しようとしている。インドやブータンやネパールとの国境地帯に新しい村を次々と建設して、サイバー戦争の基地や地下弾薬庫を設けたりすることで、戦略的に重要な地域への支配力を強めているのだ。
中国は国際的なルールや規範も無視する。例えば、近年のブータン領内への侵入は、「国境の現状を一方的に変更するような行動を取らない」という1998年の2国間協定に違反するものだ。ラダック侵入も、インドとの一連の合意に反する。
つまり中国は2国間合意を破る常習犯であり、なんらかの合意を結んでも、その領土拡張意欲に待ったをかけることはできないようだ。
経済力と軍事力の両方が増大するのに従い、中国のこうした冒険主義的な傾向は強くなってきた。現在、中国の軍事費は1995年の10倍ほどに増えており、海軍の保有艦艇数は世界一で、沿岸警備隊(中国海警局)も世界最大となっている。ミサイルや核兵器の備蓄も拡充してきた。
だが、中国の冒険主義は、かえって中国に不利な状況を生み出している。膨張主義的な政策は世界中で反発を招き、アメリカとの戦略的対立を根深いものにした。日本とインド、そしてオーストラリアは、中国を中心とするアジアの誕生を許すまいと、決意を固くしているように見える。
中国にとっての「悪夢」が現実に
習は20年のラダック侵入にゴーサインを出したとき、大きな誤算をしていたようだ。インドが軍事的に押し返すことはなく、中国のプレゼンスを受け入れると踏んでいたようなのだ。だがインドはこれ以降、中国の前方展開に匹敵する以上の装備をこの地域に投入してきた。
そこで習は昨年12月、ラダックから2000キロ以上東に位置するインドのアルナチャルプラデシュ州に中国軍を侵入させて、インドの防衛を圧倒しようとした。だが、ここでも中国軍はインド軍に撃退された。それでも習は、同州を「南チベット」と呼び、その領有権を主張した。
このためインドは今、台湾が完全な自治権を維持するかどうかという問題に利害関係を持つようになった。もし台湾が無理やり中国に「統一」されれば、オーストリアほどの大きさのアルナチャルプラデシュ州が次のターゲットになるかもしれない。