最新記事
歴史

「脳は200ドル、頭部は1000ドル」...「墓泥棒」と医学部の切っても切れない「歴史的関係」

Bodies Up for Grabs

2023年7月14日(金)15時30分
アディセン・バウアー
遺体

医学的解剖は遺体の尊厳が守られることが大前提のはずだ FSTOP123/ISTOCK

<ハーバード大学医学部の遺体安置所の責任者が遺体を売却していた事件が明るみに...。しかし、医学部が「盗まれた遺体」に支えられていた時代が近年まであった>

先日、ハーバード大学医学大学院の遺体安置所の責任者とその妻ら5人が、数年にわたり遺体の一部を切断して盗み、売却していた容疑で起訴された。

ニューヨーク・タイムズによると、切断された顔が2つで600ドルとされていたほか、脳に200ドル、頭部は1000ドルという値が付けられていたという。

 
 

実に忌まわしい話だが、大学の医学部が遺体をやりとりしてきた歴史を詳しく知れば、そこまで異常なことではないのかもしれない。医学教育は、盗まれた遺体の上に築かれてきたのだ。

19世紀初頭に遺体が商品化され窃盗が横行したことは「医学教育にとって不可欠」だったと、医学史を研究するエモリー大学のベンジャミン・リース教授は言う。

「遺体の地下取引」がなければ「医学部は存在しなかっただろうし、医療専門職がその正統性を確立するのに何世代もかかっただろう」。

この地下取引で大きな役割を果たしたのが墓泥棒だ。墓荒らしは、埋葬されている貴重品を奪うためや、「軽蔑の手段として、時には遊びとして」行われてきたと、解剖学の文化政治学を研究している歴史学者のマイケル・サポールは言う。

しかし、18~19世紀のアメリカでは、墓泥棒の多くに「医学部や医学生に解剖用の遺体を提供する」という具体的な目的があった。

アメリカで医学教育が確立されるにつれて、人体解剖を重視して医学教育の正当性を証明しようとするようになったと、リースは言う。

そこには解剖学の知識が、より高次の医学的真理を象徴するという考え方があった。

全米で年2万の献体が

ただし、遺体の供給体制は確立されていなかった。「医学生は解剖に熱中し、特に遺体の合法的な供給源がない地域では、課外活動として墓荒らしをすることも多かった」と、サポールは言う。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中