最新記事
BOOKS

元技能実習生など、不法滞在ベトナム人「ボドイ」による犯罪が北関東で頻発している理由

2023年6月30日(金)11時50分
印南敦史(作家、書評家)

だが、100万円もの借金を背負って来日し、最低賃金で働いたところで、まったく割に合わないことは明らかだ。にもかかわらず技能実習生になるのは、いったいどういう人たちなのだろう?


 それは、情報を詳しく調べる習慣を持たなかったり、物事の後先を考えないで行きあたりばったりに行動したりする人たちだ。これは彼ら本人の責任だけではなく、ベトナム国内の教育問題や貧富の格差から、批判的な思考をおこなったり長期的に計画を立てたりする習慣を学べなかった人が多くいるという事情が関係している。(29ページより)

言ってみれば、現地でも決して優秀とは呼べない人材が技能実習生という道を選びやすいということである。しかもその多くは、たとえ自分の人権が侵害されても自覚できなかったり、異議の申し立てを諦めていたりするのだという。

そういう人を選んで連れてきて、日本においても母国と同様に"制限された人権環境"に置くことで低コストを実現させているわけだ。だが、彼らが職場から逃げ出した場合はどうなるか。もちろん別の環境でまじめに働く人もいるだろうが、他方には、行きあたりばったりの行動の末に悪事に手を染める人も生まれてしまうのだろう。

それが、ボドイがらみのトラブルが多発する理由であるようだ。

無免許運転、賭博、拉致、薬物、売春、殺人、地下銀行......


「私、日本に来る前は、日本はいろんなものがキラキラしているピンク色の夢の国だと思っていたんです。でも、来てから違うとわかりました」(63ページより)


「日本人は怒るのが大好きだ。人前でどなりつけてくる。俺たちは雇われている身だから受け入れるしかないのは理解しているが、他人の前で恥をかかされると腹が立つよ。怒られるのが嫌で逃げるやつが出ても驚かないね」(90ページより)

不法滞在、不法就労、無免許運転、違法な車両入手、ひき逃げ死亡事故、賭博、拉致、家畜や果物の窃盗、薬物濫用、売春、殺人、常磐線の軌道内に自動車で突撃、地下銀行の運営などなど、ボドイが巻き起こすトラブルは多岐にわたる。そして、それらの多くは私たち日本人の常識とは大きくかけ離れている。

現実感の伴わないものも少なくないだけに、具体的に彼らがどんなことをやらかしてきたかについては本書を精読することをおすすめする。ぶっちゃけた話、ここでコンパクトにまとめられるようなレベルではない。

では、なぜそんな厄介な人たちを著者は追い続けたのか? なぜ、缶ビールなどの手土産を携えて「ここはベトナムよりも暮らしが悪い場所だ」と彼らが表現する場所にまで足を踏み入れ、話を聞いたのだろうか?

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然

ビジネス

米連邦地裁、マスク氏の棄却請求退ける ツイッター株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中