元技能実習生など、不法滞在ベトナム人「ボドイ」による犯罪が北関東で頻発している理由
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<安田峰俊・著『北関東「移民」アンダーグラウンド』に詳述されたベトナム人らによるトラブル、犯罪、その背景にあるもの>
「これ、血痕かなあ、細かい飛び散りかたが血痕っぽいよね」
カメラマンの郡山総一郎が、足元の染みを見てそう言った。
「わりと新しそうですよね。でも、本当に血かなあ......」
チー君が答える。彼は日本育ちの二四歳のベトナム人で、二〇二〇年の秋から私の取材通訳をおこなってくれていた。(「はじめに」より)
『北関東「移民」アンダーグラウンド――ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』(安田峰俊・著、文藝春秋)は、このような会話から始まる。このあと続く情景描写は非常に生々しく、しかも、こうしたやりとりが淡々としているからなおさら、ベトナム人の容疑者が起こした傷害事件の生々しさが浮かび上がってくる気がする。
著者によれば、北関東ではこうしたベトナム人による犯罪が頻発しているのだという。そして多くの場合、事件の主役は「ボドイ」と呼ばれる若者たちだそうだ。
ボドイの多くは、職場からドロップアウトして不法滞在・不法就労状態にあるベトナム人の元技能実習生だ。さらに広義で言うなら、オーバーステイ化した元留学生など「やんちゃ」な背景を持つ在日ベトナム人たちの総称、くらいの理解をしてもいいかもしれない。(19ページより)
ボドイとは、ベトナム語で「部隊」「兵士」のこと。つまりは、言葉も通じず生活習慣も異なる日本で奮闘する自らの姿をかっこよく兵士に見立てたということのようだ。
だが日本の外国人労働者政策を見るにつけ、それも決して大げさな表現ではないとも感じる。
借金を背負ってまで技能実習生になるのはどんな人たちか
言うまでもなく、移民の受け入れについて世論の抵抗が激しい日本では、外国人の非熟練労働者に関する法整備が遅々として進んでこなかった。
だが現実には、少子高齢化とデフレ経済が進行するなか、日本の労働現場は安価な労働力を大量に必要としている。だから「実習」を名目とした技能実習生や「留学」を建前に就労する偽装留学生が、実質的な外国人労働者として雇用される機会が当たり前のものになってきた。
政府も実質的にそれを認めてきたが、そもそもおかしな話だ。だからこそ、「現代の奴隷制」とも比喩されるそうした環境から若者たちがドロップアウトしたとしてもまったく不思議ではない。また、その中の一部の人間が犯罪を犯したとしても、私たちは彼らのことを一方的に責め立てることはできないだろう。
なぜなら現代の日本社会には、彼らの労働によって成り立っている部分が間違いなくあるからである。チェーン居酒屋の料理やコンビニ弁当が安価に抑えられているのも、技能実習生が製造に関わることで人件費が抑制されているからなのだ。
いわば、悪しき習慣が続いているのである。