ピーター・シンガー『動物の解放』から50年...「動物の権利」の今、そして改訂版出版へ
飼育環境の改善も見られるが、鶏の「苦しみ」は消えていない PAULA BRONSTEIN/GETTY IMAGES
<現代の動物愛護運動の引き金と評された『動物の解放』。この50年で動物の権利、動物愛護の考え方はどう変わり、変わっていないのか?>
50年前、私たち人間の動物の扱い方は間違っていると主張する筆者の最初の論考が、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス誌に掲載された。
その2年後に出版した拙著『動物の解放』(邦訳・人文書院)は、現代の動物愛護運動の引き金になったと評された。
同書では倫理的な議論と、私たちが動物にしていることの現実を提示し、前者は50年近く反論に耐えてきた。
同じような考え方は今、多くの哲学者に支持され、その中には筆者の功利主義的立場とは全く異なる見解を持つ人もいる。
カント派のクリスティーン・コースガード、フェミニスト哲学者のキャロル・アダムズ、アリス・クレアリー、動物の権利について社会契約的な視点を持つマーク・ローランズ、アリストテレス的な考えのマーサ・ヌスバウムなどだ。
一方、『動物の解放』における現実描写は長らく更新されずにきた。そこで、1年半前に同書の全面的な更新と改訂に着手し、今年6月に『動物の解放の今(Animal Liberation Now)』というタイトルで出版することになった。
新刊ともいえるこの本を執筆するに当たり、避けられなかった疑問がある。1975年以降、私たちの動物に対する考え方、扱い方は進歩したのかということだ。
動物虐待を懸念する人は多いが、その対象は主に、世界に約8億4000万匹いるペットの犬と猫だ。
その数は、食用として劣悪な環境で飼育される約2000億の脊椎動物に比べればはるかに少ない。人間が管理する動物の生死を客観的に評価すれば、ペットの扱われ方よりも、集約飼育される家畜の福祉のほうが重大だ。
狭い場所で食用に飼育されている脊椎動物のうち、約1240億の個体が魚類だ。魚類が痛みを感じることは実証されており、それを無視することは正当化できない。
さらに、毎年4600億~1兆1000億匹もの魚が海で捕獲され、粉砕されて魚粉となり、肉食魚類の餌となっている。
魚の次に消費される数が多い脊椎動物が鶏だ。一般的に約2万羽を収容する大きな小屋で、年間約700億羽が飼育され、殺される。
現在の鶏は早く成長するよう育てられているため、足の骨が未熟で体重を支えることができず、生存期間の最後の5分の1は慢性的な痛みを伴うといわれる。