最新記事
アレルギー

「花粉症は年々、深刻化している」 花粉の量は40年までに倍増、質も強力に...地球の空気に起きた「変質」とは?

POLLEN LEVELS UP

2023年6月8日(木)18時47分
テリーサ・マクフェール(医療人類学者)

秋が深まる頃になっても花粉が飛べば、花粉症の苦しみは長引く。とはいえ、気候変動は呼吸器系アレルギー患者の悩みを大きくしているだけではない。近年の天候パターンを好み、別種のアレルギーを引き起こす植物がある。ツタウルシの一種、ポイズンアイビーだ。

「私の子供時代と比べて、はるかに一般的な存在になっている」。プリマックは淡々とそう指摘する。「より繁殖力が強く、以前は見かけなかった場所に生息している」

CO2濃度の増加はブタクサなどにとって好都合

大気汚染そのものがプラスになることもある。大気中のCO2濃度の増加は、ブタクサやポイズンアイビーにとって好都合だ。その一方、窒素レベルの上昇も植物にはうれしい。

「土壌中の窒素は多くの植物にとって(必要不可欠だが、豊富に得られない結果、増えすぎを防いで生態系のバランスを保つ)制限栄養因子だった」と、プリマックは話す。

「だが化石燃料の燃焼増大で、より多くの窒素ダストが発生している。地面に落ちたダストは土壌に栄養を与える。ブタクサなどは土壌の窒素含有量や大気中CO2の増加、気温上昇を利用して繁殖力を増し、より多くの花粉を生産している」

230613p40_ALG_02.jpg

今後は花粉そのものが「強力化」する可能性も MLADENBALINOVAC/ISTOCK

数多くの環境的変化は、侵略的な植物種の成長により適した条件も作り出している。カリフォルニア州南部やアリゾナ州、ニューメキシコ州では侵略的外来種の流入で花粉量が増大。例えば、ギョウギシバはより多くの花粉を生産し深刻度の高いアレルギー症状を引き起こすことがある。

米中西部では、草の開花期がはるかにずれ込んでいる。以前から湿度の高い米南部は、多湿化と高温化が進む一方。カビの生育に理想的な組み合わせで、空気中のカビ胞子量が増えている。

花粉量は一般的に、2040年までに倍増する見込みだ。花粉自体もより「強力」になるだろう(複数のアミノ酸が結合した化合物のペプチドが増え、人間の免疫反応を悪化させる可能性がある)。

最近の研究によれば、花粉シーズンの長期化は、アレルギー性ぜんそくを理由とする救急搬送件数の増加につながる。この研究が取り上げたのは、ナラをはじめとするオークの花粉だ。既にアメリカでは、毎年およそ2万人がオーク花粉のせいで救急治療を受けている。

米総合病院メイヨー・クリニック(本部はミネソタ州)が17年に行った研究は、気候変動とCO2濃度の増加の関連を指摘している。CO2濃度が上がれば、菌類の成長が促進される。菌類にさらされた細胞はバリア機能が低下し、その結果として起こる細胞の炎症がアレルギーを悪化させかねないという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中