最新記事
アレルギー

「花粉症は年々、深刻化している」 花粉の量は40年までに倍増、質も強力に...地球の空気に起きた「変質」とは?

POLLEN LEVELS UP

2023年6月8日(木)18時47分
テリーサ・マクフェール(医療人類学者)

多くのぜんそく患者が呼吸器系アレルギーにも苦しんでいる事実は研究者にとっては意外ではない。米ノースウェスタン大学医学部のロバート・シュライマー名誉教授によれば、ぜんそく患者が花粉症に悩む確率は90%だという。「上下気道を1つの気道として捉える説は、アレルギー性の炎症は気道全体の至る所で起きる傾向があると主張する」

この説は花粉症やぜんそく、および大気中の抗原への暴露と呼吸器系アレルギーの発症との関係に関する200年を超える観察と科学的研究によっても裏付けられている。

飛散時期が長期化して量も増加

さらに気候変動が原因で農作物の成長期も特に北部で延びている。米環境保護局(EPA)のマップによると、1995~2015年の間に、花粉シーズンはミネソタ州では平均21日、オハイオ州では15日、アーカンソー州では11日増えている。

メリーランド大学で02~13年に30万人を対象に実施された調査では、春の時期が前倒しになるたびに花粉症が増加。春の訪れが早かったときは14%も増えていた。

例えば北米原産のキク科の植物であるブタクサは、呼吸器系疾患の最大の自然環境要因の1つだ。繁殖力が強く花粉症の原因となることで悪名高い。ブタクサは二酸化炭素(CO2)濃度の変化に非常に敏感で、CO2濃度が上昇すれば花粉量が増える。大気中のCO2濃度の上昇はブタクサにとっては好ましいが、アレルギーに悩む人にとっては悲惨だ。

だが問題はブタクサにとどまらない。ボストン大学のリチャード・プリマック教授(生物学)は花粉に詳しい。プリマックの研究チームは春の受粉などの生物学的事象の時期に気候変動が及ぼす影響に注目している。花粉とカビ胞子の飛散について尋ねると、プリマックは過去40年間に観察した多くの変化について喜んで話をした。

要するに、季節性の呼吸器系アレルギーは年々深刻になっている、と考えるのは恐らく正しい。実際、花粉やカビ胞子の量や割合は変化している。複数の気候要因が重なって問題を悪化させているのだ。

何より明らかなのが、気温の上昇だ。平均すれば、春の訪れは以前よりずっと早まり、気温上昇に反応する草や木の開花期も早くなっている。一方、植物の成長期が終わりを迎える秋は以前に比べてはるかに暖かく、花が咲く期間が延びている。

「私の出身地のニューイングランド地方では9月下旬には寒くなり、10月上旬になると霜が降りるのが普通だった」と、プリマックは言う。

「霜が降りれば草は枯れ、花粉を飛散するブタクサなどの植物は花を付けなくなる。だが今年は10月に温暖な天候が続き、降雨量が多かったので、ブタクサなどの成長が止まらず、花が咲き続けた」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

欧州10銀行、ユーロ連動ステーブルコインの新会社設

ビジネス

豪GDP、第3四半期は前年比2年ぶり大幅伸び 前期

ビジネス

アンソロピック、来年にもIPOを計画 法律事務所起

ワールド

原油先物は続落、供給過剰への懸念広がる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中