最新記事
日本社会

学歴格差が引き起こす残酷なネガティブスパイラル

2023年5月31日(水)10時15分
舞田敏彦(教育社会学者)
履歴書の学歴記入欄

日本が学歴社会であることは誰もが認めるところだが…… takasuu/iStock.

<小中卒の刑務所入所率は大卒の25倍にもなるが、その背景には学歴差別による経済的困窮がある>

日本は学歴社会と言われる。学歴社会とは、地位や富の獲得(配分)に際して学歴が強く影響する社会だが、日本がこういう社会であるのは誰もが知っている。同じ仕事でも学歴によって給与は違うし、有形・無形の報酬(賞賛)、既婚率にも学歴差がある。ここで細かいデータを出すまでもない。

一方、負の側面においても差がある。たとえば犯罪率だ。こういうデータはタブー視されているのか、公にされることはないが、公表されている官庁統計をもとに試算してみると、残酷なほどの差が露わになる。

法務省の『矯正統計年報』によると、2020年の1年間の刑務所入所者は1万6620人。同年10月時点の15歳以上人口10万人あたりの数にすると15.4人となる。この刑務所入所者出現率を性別に出すと、男性は28.5人であるのに対し女性は3.2人。性差が甚だ大きいが、男性は外に出る機会が多く、犯罪を誘発する行為環境に遭遇したり、犯罪に親和的な文化に接したりすることが多いためだろう。

分子の刑務所入所者数、分母のベース人口を学歴別に得て、学歴グループ別の刑務所入所者率を計算すると<表1>のようになる。上段は男性、下段は女性の数値だ。

data230531-chart01.png

男女とも、低学歴の群ほど刑務所入所率が高い。その差は男性で大きく、大卒を基準にした倍率にすると高卒は4.3倍、小・中卒は25.1倍にもなる。義務教育しか終えていない人物が刑務所に入る確率は、高等教育修了者の25倍ということだ。

現在の日本は、高校進学率95%超、大学進学率50%超の高学歴社会だ。中学校しか出ていないと、就ける仕事が著しく限られ、低収入で働かされるなど、諸々の不利益を被るのが現実だ。生活態度の不安定化レベル(犯罪へのプッシュ要因)、犯罪誘発要因や逸脱カルチャーへの接触頻度(プル要因)も高くなる。こうした傾向は、社会参画の度合いが高い男性で顕著だろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スペースXのIPO、モルガンSが主幹事最有力 マス

ビジネス

BofA、投資銀行部門の賞与引き上げへ 20%増も

ビジネス

ビットコインの12カ月予測14万3000ドル、規制

ワールド

国際司法裁、ミャンマーのジェノサイド訴訟で1月審理
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中