最新記事
日本社会

学歴格差が引き起こす残酷なネガティブスパイラル

2023年5月31日(水)10時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

最近、お金欲しさで闇バイトに手を染めるといった困窮型の犯罪が増えているというが、生活に困っている者の割合も学歴によって違う。<図1>は、30~40代の中年層を最終学歴で3つの群に分け、日々食べることにも困る暮らしをしている人の割合をグラフにしたものだ。

data230531-chart02.png

色がついている部分が、過去1年間に「飢え」を経験した者の割合で、義務教育卒では61.1%、中等教育卒では27.5%、高等教育卒では16.7%となっている。明瞭な差だ。義務教育卒のグループでは、「しばしばあった」という著しい困窮状態の者も16.7%いる。この群は対象者全体の中で4.4%とマイノリティーだが、見えにくい「豊かさの中の貧困」という現実があることに、思いを馳せなければならない。

高度経済成長期の1960年頃までは、同世代の半分ほどが中卒で社会に出ていたが、現在では半分が大卒だ。企業も好んで大卒を採るようになっているが、職務遂行に必要な技能水準が上がったためではない。「間違いのない人を採りたい」という思惑から、大卒学歴をフィルターとして使っているだけのことだ。

よくよく考えれば、同じ仕事なのに学歴で給与に差を付けたり、職業への参入障壁として学歴を用いたりすることに合理的な根拠はない。採用活動のコストを低減するためのフィルターとして学歴に依存し過ぎることは、不当な差別を生むことにもなる。社会の機能的必要とは無関係に教育は自己増殖し、自立のためのハードルが高まり(教育費高騰)、結果として少子化が進むことにもなる。

現に不当な差別により困窮している低学歴層には支援の措置が講じられるべきで、学び直しの機会の提供も求められる。近年、夜間中学の設置が進んでいることの背景には、こういう問題意識もある。既存の高校や大学も、こうした学び直しの機能を強化するべきだ。

<資料:法務省『矯正統計年報』
    『第7回・世界価値観調査』(2017~2022年)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、欧州統括会社で87の全職位を見直し 組織を効

ワールド

中国紙「日本は軍国主義復活目指す」、台湾有事巡る高

ワールド

世界の石油需要、2040年まで増加続く見通し=ゴー

ビジネス

モルガンSに書簡、紫金黄金国際の香港IPO巡り米下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中