最新記事

英王室

本を読まないヘンリー王子の回顧録は「文学作品としては最高峰」──ゴーストライターの手腕とは?

Prince Harry’s Book Is Just Good Literature

2023年1月31日(火)11時34分
ローラ・ミラー(コラムニスト)
ヘンリー王子, スペア

ゴーストライターの工夫と技が随所に光るヘンリー王子の告白本 CELAL GUNESーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<いたずらっ子のちゃめっ気エピソードも適度にまぶし、筆致も魅力的な『スペア』。王子自身の好感度アップには貢献しても、メディアには苦しめられ続けるというジレンマ>

イギリスのヘンリー王子の回顧録『スペア』の中には、2015年に受けたインタビューの話が出てくる。

独身生活を満喫しているヘンリーのことを、1990年代のベストセラー小説(レニー・ゼルウィガー主演で映画化もされた)『ブリジット・ジョーンズの日記』の主人公になぞらえる人がいると言われ、王子は当惑する。だが『スペア』の文脈から考えると、あながち間違った例えとも言えない。

というのも『スペア』は、90年代後半のイギリスではやった、独り善がりの独身者が気付きを得て真の愛に目覚め、一皮むけた大人に成長するというタイプの小説みたいに読めるからだ。女性が主人公の『ブリジット......』がしっくりこないなら、『ハイ・フィデリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』ならどうだろう。

一つ言っておくなら、私がこの本で最も気に入った部分と、多くの読者の気に入った部分はたぶん一致しない。一通りの予備知識は持っていたけれど、私はイギリス王室にも王族たちの行動にも強い関心を抱いたことはない。

驚いたのは、本の前半が魅力的な文学作品に仕上がっていたことだ。これは間違いなく、執筆に協力したJ・R・モーリンガーの手柄だ。彼は業界で引く手あまたのゴーストライターで、ピュリツァー賞の受賞歴を持つジャーナリストでもある。

元テニス選手アンドレ・アガシの回顧録のゴーストライターを務めた際には、アガシの住むラスベガスに自らも2年暮らした。そして長い長い時間をかけてアガシにインタビューし、スポーツ選手の自伝の金字塔と言われるまでの作品に仕上げたのだ。

ヘンリーは自身も認めるとおり、「それほど本が好きではない」。冒頭で引用されているアメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの言葉「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしない」に衝撃を受けたと言いつつ、インターネットの名言サイトでこのフレーズを初めて見た時にまず思ったのは「フォークナーって誰?」だったという。

各場面のリアルな肌触り

本作で描かれるヘンリーはいかにも男っぽい男で、頭で考えるより行動するタイプだ。アウトドアや仲間たちと酒を飲むのが性に合っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニーG、日本語専用「PS5」を21日発売 価格5

ワールド

トルコ軍用輸送機がジョージアで墜落、少なくとも20

ビジネス

英中銀の量的緩和、利益が巨額損失をほぼ埋め合わせ

ワールド

米航空管制の人員態勢が改善、政府閉鎖終了見据え 欠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中