最新記事

遺跡

「大地に広がる観測網?」メキシコの遺跡に通じる道は、巨大な天体観測装置だった 農業専門家が発見

2022年12月19日(月)16時45分
青葉やまと

メキシコのトラロック山の古代土手道の壁の間から昇る太陽  (Ben Fiscella Meissner)

<高度な農業システムを維持した、アステカ文明。その正確な農業暦を支えたのは、太陽の動きを追う大規模な観測網だったようだ>

メキシコ中部に位置する首都・メキシコシティ。かつてこの盆地に栄えたアステカ文明のメキシカ人たちは、都市全体に広がる秘密の天体観測網を持っていたようだ。

1519年に征服者に襲われるまで、この地域は100万から300万の人口を擁していたと言われる。高い人口密度を維持できるだけの、傑出した農業システムが存在したはずだ。しかしこれまで、正確な農業暦をどのように管理していたかは謎に包まれていた。

たとえば夏場のモンスーンは恵みの雨を降らせるが、雨期に入ったかどうかを見分けるには慎重な判断が求められる。仮に、ちょっとした雨天続きに惑わされて作物の植え付けを済ませてしまえば、その後の日照りにより作物が全滅してしまうリスクがある。

ヨーロッパで発達していたような観測用器具をメキシコの人々は持たなかったが、不作による集落の全滅といった危機は発生してこなかった。このことから、なんらかの手段でカレンダーのように正確な日付を把握していたと考えられる。

そこで、カリフォルニア大学リバーサイド校のエセキエル・エスクラ栄誉教授らのチームが調査を行ったところ、盆地から見て東部に位置するトラロク山に、とある仕掛けが施されていることが判明した。研究成果が論文にまとめられ、12月12日付で米国科学アカデミー紀要に掲載されている。

身近なトラロク山に残されていた、古代の観測所

トラロク山はメキシコシティから比較的近く、現在ではハイキングやバイクなど、アウトドアを気軽に楽しめるスポットとして親しまれている。その斜面の一角に、古代の建物の基礎部分が残存している。

この建物には、その壁面に対して直角とは言えない奇妙な角度で、直線状の長い通路のような遺構が据え付けられている。この通路状の部分は入り口のようだが、それ以外に重要な役割を果たしていたようだ。

エスクラ氏たちが詳細に調査した結果、毎年メシカ歴の正月(グレゴリオ暦の2月23日)になるとこの道に、正面から日の出の光がまばゆく差し込むことが判明した。太陽の位置を正確に捉える観測装置として機能していた模様だ。エスクラ氏は、この日を基準に365日を数えることで、アステカ文明の天文学者たちが正確な日付を把握していた可能性があると指摘している。

もっとも、この装置を使わずに任意の日から365日を数え続けても、カレンダーは維持できる。だが、1年は正確に365日ではなく、1日未満の誤差を含む。365日を繰り返し数えた場合、長い歴史のなかでは実際の地球の公転周期よりも早く日付が進んでしまう。

エスクラ氏は、その修正のためにこのような天体観測装置を設け、誤差を把握していたのではないかと指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷主は「

ワールド

UBS資産運用部門、防衛企業向け投資を一部解禁

ワールド

米関税措置の詳細精査し必要な対応取る=加藤財務相

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中