最新記事

経済制裁

ロシア経済制裁の効力──企業による「自主制裁」が効いていたという結果

TRADING WITH THE ENEMY

2022年8月24日(水)13時49分
デービッド・ブレナン(本誌記者)

220830p42_RSS_03v2.jpg

世界有数の穀倉地帯で長引く戦争が多くの国の主食を脅かしている MAJDI FATHIーNURPHOTO/GETTY IMAGES

「ロシアとの関係はこの先長い間、破綻したままだろう」と、ニーダーマルクは言う。「プーチン大統領は文明世界における最低限のコンセンサスを放棄したのだから、当面ロシアと正常な商取引を行うのは不可能。このことを政府や企業も受け入れなければならない」

「ドイツ企業がロシアとのビジネスを再開するには、停戦だけでは足りない。国際法に背きウクライナで犯罪行為を行うロシアは、その振る舞いを根底から改める必要がある。だがそんな変化は当分望めない」

王立国際問題研究所のアッシュもまた、欧米とロシアの関係は根本的かつ長期的に変化したと考える。

「企業は撤退により相当の損失を被っており、そのことをすぐには忘れないだろう」とアッシュは言い、撤退した企業の資産を国有化するというロシア政府の方針が取引の再開をさらに妨げると予想する。「企業の自主制裁が流れを大きく変えた」

企業の撤退はロシアを苦しめている。ロシアは輸入品を国産に切り替える「経済要塞化」を進めてきたが、主要産業は今も輸入が頼りだ。

ロシア中央銀行が2021年に出した覚書によれば、国営企業の65%が輸入に依存していた。6月、建設業界の団体が調査したところ、基本的な建設機械の少なくとも50%がアメリカとEUからの輸入品と判明している。

民間航空機の80%は外国製、主にエアバスやボーイングの製品で、両社ともロシアでの事業を凍結した。政府はロシアに残された外国企業所有の航空機を数百機押収したが、必要なスペアの部品は確保できないだろう。5月にビタリー・サベリエフ運輸相は、制裁のせいで「わが国の物流は崩壊寸前だ」と述べた。

ロシアを代表する自動車メーカー、アフトワズは部品不足で3月に生産を停止。6月に低価格な4人乗りの「ラーダ・グランタ」の生産を再開したものの、エアバッグも横滑り防止装置も緊急時にシートベルトを自動でロックする装置も装備されず、排ガスの基準値も満たしていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中