最新記事

日本社会

40代を迎えたロスジェネ世代の危機

2022年8月3日(水)10時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
東京の雑踏

ロスジェネ世代では、長く非正規雇用に留め置かれ十分なキャリアを積めていない人も多い yongyuan/iPhone

<過去10年で一般労働者の月収が減っているのは、ロスジェネにあたるこの世代だけ>

国民の間で生活不安が広がっている。とくに40代(筆者の年代)は、子どもの教育費がかさみ、早い人では老親の介護が始まるなど、色々な役割がのしかかる人生のステージであるだけに、辛い思いをしている人が多いのではないか。

物価は上がる一方で給与はさして上がらない。後者のデータを見ると、10人以上の事業所に勤める一般労働者の月収は,2010年では32.4万円だったが2019年では33.9万円と微増した。しかし40代前半は36.8万円から36.5万円、40代後半は38.8万円から38.4万円へと減少した(厚労省『賃金構造基本統計』)。

この10年間で収入が減ったのは40代だけだ。学校卒業時が平成不況のどん底であったロスジェネが、この年代に達したためでもあるだろう。長く非正規雇用に留め置かれ、十分なキャリアを積めていない人も多い。最近の凶悪事件(ネットカフェ立てこもり、元首相銃撃事件)の犯人は皆40代だが、個別的な事情もさることながら、今の40代が置かれた社会的状況の影響も無視できない。

過去の統計を見ると、40代の犯罪は社会状況の変化に鋭敏に反応する。<図1>は、40代の失業率と強盗発生率がどう推移したかをグラフにしたものだ。失業率は労働力人口に占める完全失業者の割合で、強盗発生率は人口10万人あたりの強盗検挙人員を指す。年による凹凸がやや激しいので、3年間隔の移動平均法で推移を滑らかにしている。

data220803-chart01.png

過去半世紀の統計的事実だが、2つの曲線はかなり近似している。相関係数は+0.897と非常に高い。失業と強盗の相関はどの年齢層でも見られるが、同じ期間の推移から出した相関係数は、20代は+0.325,30代は+0.765,50代は+0.888で、40代で最も高いことが分かる。

40代は様々な役割がのしかかる人生のステージで出費もかさむ。収入減を断たれることが生活困窮につながり、犯罪に傾くという因果経路も強くなるのは道理だ。今の40代は、就職氷河期世代という不遇も重なっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心

ビジネス

午後3時のドルは146円付近で上値重い、米の高関税

ビジネス

街角景気6月は0.6ポイント上昇、気温上昇や米関税

ワールド

ベトナムと中国、貿易関係強化で合意 トランプ関税で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中