最新記事

世界経済危機

戦争、インフレ、食糧不足......戦後最大の世界経済危機が迫っている

DIVIDED AND POWERLESS

2022年6月30日(木)19時45分
エドワード・オルデン(米外交問題評議会上級研究員)

magSR20220630divided-3.jpg

アメリカでもガソリン価格が高騰 EDUARDO MUNOZ-REUTERS

世界金融危機の際のG20の主要な成果の1つは、加盟各国が世界的な景気の減速を悪化させる保護主義的対応を避けると固く誓い、その誓約を守ったことだ。こんな控えめな成果でも、国同士が対立したり、積極的に互いの経済的利益を損なったりするよりはましだった。

では、WTOが全会一致の規則のせいで身動きが取れず、G7やG20も有効性を失ったら、次はどんなグループや組織が救いの手を差し伸べればいいのか。

残念ながら答えはない。それだけ今回の危機の連鎖に対するグローバルな協調は難しい。

アメリカとその同盟国は、広範な制裁でロシア経済に打撃を与えるために積極的に働き掛け、それに反発したロシアは黒海の港を封鎖して、ウクライナの穀物輸出を妨げた。これによってG20は分裂し、力を失った。

ジャネット・イエレン米財務長官はG20からのロシア排除を要求し、ロシアが出席する場合は会合をボイコットすると脅した。4月にワシントンで開かれたG20の会合では、アメリカを含む複数の国の代表がロシア代表の発言中に席を立った。

この会議は、何らかの合意を示す共同声明の採択もなく終了した。だがロシア排除の試みは実現しそうにない。アメリカの要求に正式に加わっているのは、カナダとオーストラリアだけだ。今年のサミット開催国インドネシアは、11月に開催予定の会合にロシアを招待している。

ロシアが参加するだけでG20は機能不全に陥るかもしれないが、ロシアを排除しつつ世界経済を強化するという話に乗る国もほとんどない。中国は絶対にロシアとの関係を断たない。一方で中国は自給自足の体制強化を進め、いずれ欧米から現在のロシアのような制裁を受けた場合に備えようとしている。

欧米諸国や日本はG7などの場を通じて、対ロシア制裁の強化の度合いについて意見の相違はあるにせよ、今までになく結束を強めている。それは決して小さな成果ではない。この主要7カ国は依然として世界経済の半分近くを占めており、先端技術の開発でも世界を引っ張っている。

舵取り役がどこにもいない

アメリカと欧州は、鉄鋼、アルミニウム、航空機の貿易をめぐる論争をほぼ過去のものとした。これも立派な成果だ。しかし現在の複合的な危機は大きすぎて、G7だけで対応できる範囲を超えている。

例えばG7は50カ国以上の支持を得て、食糧安全保障にかなりの効果が期待できる提案をしている。各国が輸出規制などで世界の食糧市場をゆがめる措置を取らなければ、資金面や技術面の支援を拡大するという提案だ。

だがインドは5月に小麦の輸出を禁止し、今のところこの提案にも賛同していない。インドはまた、貧困国が農業部門の自給率を高められるよう、大国が余剰在庫を提供するという提案にも抵抗している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中