戦争、インフレ、食糧不足......戦後最大の世界経済危機が迫っている
DIVIDED AND POWERLESS
世界金融危機の際のG20の主要な成果の1つは、加盟各国が世界的な景気の減速を悪化させる保護主義的対応を避けると固く誓い、その誓約を守ったことだ。こんな控えめな成果でも、国同士が対立したり、積極的に互いの経済的利益を損なったりするよりはましだった。
では、WTOが全会一致の規則のせいで身動きが取れず、G7やG20も有効性を失ったら、次はどんなグループや組織が救いの手を差し伸べればいいのか。
残念ながら答えはない。それだけ今回の危機の連鎖に対するグローバルな協調は難しい。
アメリカとその同盟国は、広範な制裁でロシア経済に打撃を与えるために積極的に働き掛け、それに反発したロシアは黒海の港を封鎖して、ウクライナの穀物輸出を妨げた。これによってG20は分裂し、力を失った。
ジャネット・イエレン米財務長官はG20からのロシア排除を要求し、ロシアが出席する場合は会合をボイコットすると脅した。4月にワシントンで開かれたG20の会合では、アメリカを含む複数の国の代表がロシア代表の発言中に席を立った。
この会議は、何らかの合意を示す共同声明の採択もなく終了した。だがロシア排除の試みは実現しそうにない。アメリカの要求に正式に加わっているのは、カナダとオーストラリアだけだ。今年のサミット開催国インドネシアは、11月に開催予定の会合にロシアを招待している。
ロシアが参加するだけでG20は機能不全に陥るかもしれないが、ロシアを排除しつつ世界経済を強化するという話に乗る国もほとんどない。中国は絶対にロシアとの関係を断たない。一方で中国は自給自足の体制強化を進め、いずれ欧米から現在のロシアのような制裁を受けた場合に備えようとしている。
欧米諸国や日本はG7などの場を通じて、対ロシア制裁の強化の度合いについて意見の相違はあるにせよ、今までになく結束を強めている。それは決して小さな成果ではない。この主要7カ国は依然として世界経済の半分近くを占めており、先端技術の開発でも世界を引っ張っている。
舵取り役がどこにもいない
アメリカと欧州は、鉄鋼、アルミニウム、航空機の貿易をめぐる論争をほぼ過去のものとした。これも立派な成果だ。しかし現在の複合的な危機は大きすぎて、G7だけで対応できる範囲を超えている。
例えばG7は50カ国以上の支持を得て、食糧安全保障にかなりの効果が期待できる提案をしている。各国が輸出規制などで世界の食糧市場をゆがめる措置を取らなければ、資金面や技術面の支援を拡大するという提案だ。
だがインドは5月に小麦の輸出を禁止し、今のところこの提案にも賛同していない。インドはまた、貧困国が農業部門の自給率を高められるよう、大国が余剰在庫を提供するという提案にも抵抗している。