最新記事

世界経済危機

戦争、インフレ、食糧不足......戦後最大の世界経済危機が迫っている

DIVIDED AND POWERLESS

2022年6月30日(木)19時45分
エドワード・オルデン(米外交問題評議会上級研究員)

magSR20220630divided-2.jpg

ウクライナの小麦畑の背後にある工場が、ロシアの砲撃を受けて燃える LEAH MILLIS-REUTERS

もちろん、いつまでも同じ体制や機関が効果を発揮するというものでもない。世界各国の政府は歴史上、既存の組織では古くて対応が不十分だと分かると、創意工夫を凝らして新たな協力の道を切り開いたものだ。

例えば1970年代にも、今日の難題に負けないほど危険な情勢があった。

インフレの暴走、ベトナム戦争、中東戦争、石油ショックによる世界的なエネルギー価格の高騰、ブレトンウッズ体制下の金本位制の崩壊、米政界を揺るがしたウォーターゲート事件などが相まって、世界的に不安定と低成長の時代がもたらされた。

各国政府は初め、これら諸問題に取り組むために十分に協力することができなかった。もはや欧米流の資本主義では政治も行政も経済危機に対処できないのではないかと、「正統性の危機」が論じられもした。

だが1971年にアメリカのニクソン政権が金・ドルの交換を停止したのを機に、西側主要国の財務相が鳩首協議。新たな通貨制度の構築に向けて力を尽くした。その努力が実を結び、1975年に初の先進国首脳会議(G6)が開かれたのだった。

首脳たちは各国の低迷する経済を立て直すため、補強し合う手段を見いだすことを自らの課題とした。このグループは後にカナダが参加してG7となり(さらにロシアを加えてG8となるも2014年のクリミア併合後にロシアを除外)、西側の主要経済国の間で緩やかな調整機構として今日も存続している。

そんなG6サミットから20年ほどの間は、割と平穏無事な世の中が続いた。しかし1994~95年のメキシコ、1997~98年のアジア、1998年のロシアなど、相次ぐ通貨・金融危機で不安定になったところで、1999年にG20(20カ国・地域)首脳会議(当初は財務相・中央銀行総裁会議)が誕生した。

その頃までには新興経済国が台頭していたので、G20の発足はそういう現実の変化をなぞるものだった。G20には中国、インド、ブラジル、メキシコ、インドネシアなどが参加し、以前の富裕国クラブよりも大所帯となって、1990年代の経済の在り方を体現する集団へと発展していった。

G7と同じように財務相・中央銀行総裁会合が定期的に開かれていたが、2008年の世界金融危機で首脳会議に格上げされた。

対ロ制裁が招く西側の分裂

世界金融危機とその余波の中で、G20は経済成長を回復するための世界的な取り組みの中心となった。協調下の景気刺激策で世界経済の回復に拍車を掛けるとともに、金融の規制強化を図り、IMF(国際通貨基金)の融資枠も広げてきた。

むろん、このような協力の仕組みから大胆な変革が生まれることはめったにない。G7にもG20にも決定権はなく、互恵的な政策を各国に働き掛けるだけの場だ。そういう場で可能なのは事態の悪化を防ぐことくらいであり、危機を乗り越える壮大な計画の立案は無理だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB追加利下げ、ハードル非常に高い=シュナーベル

ビジネス

英BP、第2四半期は原油安の影響受ける見込み 上流

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中